第2話 公園の噴水に愛を叫ぶ
スマホのアプリでこんな現象が発生するとは思わなかった。
小学生並みの感想だが、
この時の僕には、そんな風にしか考えが至らなかった。
ウイルスである可能性を考慮しなかった。
アクセス過多の障害であると判断しゲームを進めてしまった。
とにかくゲームを始めたかったのだ。
誰よりも早く。 そして、誰よりも長く。
アプリは正常に動いた。
タイトルの文字化け以外、異常はなさそうである。
ストーリーの文字列が並び、ゲームの説明が始まる。
なになに。
「この世界にたくさんの姫が存在する。
それは物の数だけ存在し。 その総数は
フムフム。 ありそうな話だ。
「私はその姫を『モノ姫』と呼び、研究を進めているクワガという者だ」
クワガ博士か。 なるほど。
「君には研究の手伝いをしてもらいたい。
モノ姫を捕まえて共に過ごし、そのレポートを私に送ってほしいのだ」
こんな話だっけ???
「モノ姫はそこら中に存在しており、君との出会いを待っている。
愛を叫べ!! スマホに向かって! 愛を囁くのだ!!」
!?
「モノ姫が惚れれば君のモノ。 デジラブライフのスタートだ!!」
・・・。
モンスター玉じゃないの?
どういう事だ?
僕は確かにあのゲームをインストールした。
なのにどういう事?
親が昔語ってくれたゲーム内容と違っている。
新しく仕様変更されたのか?? ・・・分らない。
ん?
チュートリアル開始。
目の前のモノ姫を落とせ!!(今回だけは、必ず惚れます)
スマホの画面内にモノ姫のデータが出現。
内容は・・・
水のモノ姫。 乙姫科。
それだけが書かれており、他のデータは全て???となっている。
フリーズしたのか、画面をタップしても何も起こらない。
困り果てて、画面を睨みつけていると、それは起こった。
「ちょっと、こっちよ!こっち!」
大きな声が耳にぶつかる。
それは、普段向けられる事のない女の子の声だった。
声の方を向くと手を大きく振り、自己主張する少女が一人。
公園設置された噴水の中に立っていた。
それは幻想的な光景。
少女の周りには水の球が浮かび神秘的な雰囲気を醸し出している。
髪は青くて美しく、肌は透き通る様な白。体格は小柄で華奢な感じ。
しかし、彼女の青い瞳からは力強い意志を感じる。
美しい。 つい見惚れてしまっていた。
ところがである。
「あんたね!! さっきから何やっての?
早くゲットしなさいよ!!
こっちとら暑い中、日傘も差さずに突っ立てるのよ?
わかっての?
日焼けしちゃうの!!
私の美しい肌に染みが出来たらどうするのよ!!!」
・・・。
ぶち壊しだった。
なんだろう・・・ ものすごく冷めてくる。
「聞いてるの? 早くゲットしてよ!!」
いやだ。 なんかすごく嫌。
「あんたの『好き』で私はいちころよ!! 分かる??」
「悪い、なんかスマホが壊れてるみたいで・・・」
とりあえず思いついた言い訳を少女に聞かせる。
それに少女が戸惑いの表情を浮かべた。
「あなた・・・ まさか、私を見捨てるの?」
急にしおらしく振舞い、目に涙を貯める少女。
泣き出すのは時間の問題だった。
女の子を泣かせる。
それは斉藤学の人生で初めての事。
「その・・・ ごめん」
即座に謝罪。
反応が返ってこず、どうしていいのか分からない。
少女は涙を貯めた目を擦りながらこちらを確認。
「グスン。 好き。 許してほしいなら・・・ 言って」
声を掠らせながら、涙目で語る少女。
その仕草が、たまらなく可愛い。
「す・・ き・・・」
つい口を滑れせていた。
意図的ではないが、これまた人生初の告白である。
顔が赤くなるのを自覚する。
だが満足いかないとばかりにジト目を向ける少女。
新たに許す条件を追加した。
「大きな声で。 愛を込めて。 お願い!!」
お願いの仕草が素晴らしい。
アイドルとかには興味がなかったけど、彼女達にハマるオタクの気持ちが分かる気がした。
お願い。 聞いちゃいます♡
「好きだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
全力全開で叫んだ。
それこそ僕の住む町全体に轟くくらい。
愛を込める?
正直、僕には難しくてわからない。
だから声の大きさで主張したんだ。
叫ぶのをやめ少女を確認。
僕を見詰めて微笑んでくれている。
その顔が妙に熱っぽかった。
夏はまだ始まったばかり。
そう、これが僕のデジラブライフの始まりだった。
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