第132話 インチキ教祖に忍術でお仕置きを その3

「やれやれ、あんな調子で大丈夫かな」


 風は腕組みをしながらそんなのんきな図書室の様子を影から見つめ、ため息をつく。そうしてまた人知れず気配を消したのだった。



 一方、エセ宗教が軌道に乗って笑いが止まらないのがユードルだ。今までの失敗の穴埋めをして更にお釣りが来る今の状況に、組織の構成員は頬が緩みっぱなしだった。


「うっほお!むっちゃ儲かりますなあ!」


「最初からそうすれば良かったんだよ」


 一番下っ端のマーヴォとそのひとつ上のレンジが宗教の爆発的なヒットで新しく建て替えた事務所ビルの応接室で談笑している。設置されている金庫には信者から集めまくった札束がぎっしり詰まっていた。そのお金で毎日贅沢三昧をしているのだ。

 下っ端2人が調子よく酒盛りをしていると、成金趣味の高級なスーツを着たリーダーのカーサが今までの下積みの重要性を部下に熱弁する。


「ま、そう言う話を持ちかけてくれるくらいになるまでには下積みも必要ってこったな」


「宗教ってやつは問題さえ起こさなきゃ信者がずっと支えてくれる。適当な事言ってりゃもう食いっぱぐれねえ」


 レンジは今回の仕事について収入面からの安易さについて浮かれたのか、豪快に笑う。そもそも何故ユードルがこの仕事をする事になったのか、もちろんこの組織単体で出来た訳ではない。様々なコネも必要だ。そう言う裏の組織との取引の積み重ねでようやく美味しい話に辿り着けたと言うのが真相のようだ。


 そうして、そう言う関係があると言う事は、信者から得たお金もまた全てが自分達のものになる訳ではない事も意味している。この事についてマーヴォが不満をぶちまけた。


「でも兄貴、いくら儲けても上がりの何割かは奴らに渡さなきゃなんえねえんだろ?」


「信用されるまではな。そっから先はどうにでもなる」


 どうやらユードルの方もこのまま人間の裏組織の下っ端で終わるつもりはなさそうだ。資金を集めた上で下剋上を狙っているらしい。この計画を聞いた下っ端構成員は、ボスの顔を見つめてニヤリと悪党らしく邪悪な笑みを浮かべる。


「流石兄貴、悪だぜ」


「よせやい、照れるぜ」


 カーサは部下のおべっかに照れ笑い。その後も酒をぐびっと飲み干すと、部下2人を前に今の家業である宗教のイベントについて話を進める。


「で、次の祭りの準備は間に合ってるのか?」


「えっと、あの派手なやつですよね?大丈夫、順調ですぜ」


「いいか、絶対失敗するなよ。ここで失敗したら今までの全ての投資がパアになる」


 カーサは楽観的な雰囲気になっている部下2人を前ににらみをきかせる。今までがおかしいくらいに順調だったので、そろそろ何かが起こるかも知れないと用心しているのだ。

 その心配を察知したのか、ここでレンジが少し弱気な発言をする。


「奴ら、乗り込んできませんかね?」


「だからそれを含めての準備だろうが!」


 不甲斐ない部下をカーサが一喝する。ユードルはボスであるカーサのワンマンチームなため、その手下2人は単独だと本当に頼りない。

 けれど、それはリーダーの具体的な指示のある時は本当にテキパキと有能な働きを見せると言う事でもあった。

 と、ここで一番下っ端のマーヴォがカーサに自分の意見を進言する。


「いっその事、こっちから襲っちゃえば……」


「いいか、俺達は今あまり派手な動きは出来ないんだよ。いつも知らない間にマークされている。派手に動くのはもうちょっと待て」


 少し血の気の多い部下に、今の成功しているイメージを崩さない事の重要性をボスは分かりやすく説明した。その話を興奮気味に何度もうなずきながら聞いたマーヴォは、拳を強く握って力強く宣言する。


「分かった。今度こそ今の仕事を成功させないとだぜ」


「それじゃあ今日の仕事を始めるぞ、行くぞお前ら!」


 ミーティングも終わり、異世界生物融合体犯罪組織ユードル3人組は気合を入れ直し、応接室のドアを開ける。直前まで酒盛りをしていた3人ではあるけれど、異世界生物融合体はあっと言う間にアルコールを分解出来るので何も問題はないのだった。



 数日後、由香はちひろに連絡を取っていた。例のアレの件のお願いをしていたのだ。


「ふーん、偽造パスねぇ」


「ちひろさんなら何とかなりますよね?」


「分かった、ちょっと動いてみる」


 そう、偽造パスを作れる知り合いとはシュウトもよく知っている政府高官の彼女の事だった。政府の中でも特殊な仕事をしている関係上、こう言う裏工作も実は得意な分野だったりもするらしい。いつも依頼書に詳しい資料が載っている事から、そう言う分野に明るいスタッフがいるのではないかと由香は以前からにらんでいたのだ。

 ちひろはこの頼みを二つ返事で引き受け、電話口の彼女を安心させる。


「あざっす!あ、それと」


「うん?」


「風と連絡取れませんか?」


 由香はちひろ経由で風と連絡が取れないか打診する。これはあの地下の秘密実験室でのやり取りからの発想のようだ。ただ、こっちの頼み事に関しては彼女の想定通りには話が進まなかった。

 由香が色よい返事を待っていると、聞こえてきたのはちひろからの素直な疑問の声。


「あの子なら学校に登校しているんだから、普通に由香ちゃんから話しかければいいだけじゃない?」


「でも捕まらなくて……」


「私もあんまりあの子とは仲良くないんだよね」


 そう、実はこのマシンガントークで誰とでもすぐに仲良くなれそうな彼女でさえ、風とのコミュニケーションには手を焼いていたのだ。その事実を耳にして由香は頭の中でイメージを膨らませると、ちょっと無茶ぶりしすぎたかなと反省する。


「そうですか。すみません、無茶言って」


「あ、でも、風の担当とは知らない仲じゃないからそれとなく頼んでみよっか?」


 この話しぶりから見て、どうやら風にも上司的な存在がいるらしい。流石に同じ政府関係者だけあって、ちひろとその人物とは同僚的な繋がりがあるようだ。

 この一筋の希望に由香は少し心が揺れたものの、その経路を使うのは何だか流石に卑怯な気がしてちひろの申し出をやんわりと断った。


「いえ、同じ学校に通ってるんで、やっぱり自分達で何とかします」


「そう?じゃあパスの方は任せてね」


「はい、有難うございます」


 こうしてパスの件はうまく話がついて、由香はほっと胸をなでおろした。後、やっぱりまだ風に隠密技を教えててもらうプランをあきらめきれない彼女は、明日もう一度ぶつかってみようと決意を新たにする。


 次の日の昼休み、昼食を一気に掻き込んだ後に頬を叩いて気合を入れた彼女は早速席を立った。


「うっし!やるか!」

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