第131話 インチキ教祖に忍術でお仕置きを その2

 今回もヤツラらしいポカがあるはずと言うのは、由香以外も想像はしている。ここまで話を聞いていた勇一は、勿体ぶって話す彼女に結論を急かした。


「んで?実際どうするんだ?」


「この資料には詳しい情報が載ってるんだよ」


 彼女はそう言うと、ちひろから渡された依頼書の資料の該当ページを改めて図書室のテーブルの上に広げる。それを見た勇一はじっくりと眺めて感想を口にした。


「施設の住所や内部の見取り図もあるよな」


「それも大事だけど、団体のイベントも記載されてる、これが鍵だよ」


「イベントが?」


 そこに全く注目していなかった事もあって、この発言にシュウトも思わず声を上げてしまう。男子2人が予想外の展開に戸惑う中で、作戦担当は得意げに自分の立てた作戦の説明を続けた。


「ほら、例えばこの外部のタレントを呼んでの講演会、ここで警備が薄くなるよね」


「なんで?」


 外部の人物が出演すると警備が薄くなる。普通は逆だろうと言う事で勇一は首をひねった。そう言う反応があるのは想定内だと言わんばかりに、由香の顔はニヤリと強気の笑みを浮かべる。


「私達が関係者に紛れ込めばフリーパスって事」


 つまり、外部から人を呼ぶ以上、そこには外部からの関係者が入り込む事になる。そこを利用しようと言う作戦のようだ。それは映画とか物語の、例えばスパイモノなどではよくみる手段なものの、現実にそう言う事が出来るかと言えば誰もが首を傾げる事だろう。当然、その方法が成功すると確信しているのは作戦を立案した由香1人だけだった。

 話が実現不可能領域に入ったところで、勇一が呆れた顔をする。


「そんな事どうやって……?」


「出来ない事は頼めばいいでしょ」


「そんな知り合いいないし……」


 一連の会話を聞いていたシュウトが消極的なツッコミを入れると、そこでまた由香がドヤ顔になった。


「私にはいるんだよ」


「えっすごい」


 彼女の発言に思わずシュウトは驚いて目を丸くする。この発言には同席していた勇一もまた動きが止まるほど動揺していた。イベントに紛れ込むと言う事は、簡単に言えば偽装パスを手に入れると言う事。物語ではお馴染みの手段だけれど、一介の中学生がそう言う組織につてがあるだなんて。

 それってそもそも犯罪行為だろうと言う事を、その先が怖くなった2人は口に出す事が出来なかった。


「だから侵入はもう出来るって事で話を進めるね」


 由香は男子2人の想像をまるで気にしないみたいに、にこやかな表情を浮かべている。何か怖いので話題を変えようとシュウトは頭を働かせた。そこでさっきの彼女の言動についてパズルのピースがハマっていく。


「あ、侵入出来た後の事で風の技を身に着けたかったのか」


「ま、ね」


 風が身に着けている隠密の技を身につける事が出来れば、確かに関係者がどれほど多くても関係なく依頼を遂行する事が出来るだろう。由香の行動の答え合わせが出来たところで、ついシュウトは余計な言葉をつぶやいてしまう。


「玉砕したけど」


「そこ、一言多いよ。とにかくうまく侵入出来たなら、後はこの幹部のいる部屋に行って一網打尽だよ」


 由香は余計なツッコミに気を悪くするものの、そのまま作戦について説明を終えた。この話を最後まで聞いたところで勇一がポツリと素直な感想をこぼす。


「意外とざっくり計画なんだな」


「でもいつもそうだよね」


「何よ、じゃあ降りる?」


 男子2人からの素朴な反応に由香は頬を膨らました。変に誤解されていると感じたシュウトはすぐに弁解に走る。


「誰もそんな事言ってないだろ?」


「由香ちゃん最高!俺は一生ついて行くぜ?」


「勇一君、そう言うのはいいから」


 勇一がふざけた反応をしてくれたお蔭で場は何とか収まった。ただ、彼の場合はその言動が本気の可能性もない訳じゃないけど。由香からの冷めた視線が勇一に突き刺さるものの、この言葉を口にした本人はまんざらでもなさそうだ。

 こうして雰囲気が落ち着いたところで、改めて今回の仕事について細かい所を詰める事に。ここでシュウトが彼女に質問する。


「じゃあ、俺達がするべき事って……」


「そうね、外部スタッフで紛れ込めれば一番なんだけど……」


「でも俺達まだ中学生だぞ?大人スタッフの中に紛れ込めると思う?」


 そう、偽造パスで潜り込めたとして、見た目でバレないかと言う問題だ。流石に体型までは誤魔化す事は出来ない訳で、3人の中で一番背の高い勇一でさえ身長は165センチ。由香に至っては147センチしかない。作業着みたいなのを着てそれっぽく振る舞っても違和感は多分拭えないだろう。

 この大人に紛れるには幼すぎる問題に対し、頭の回る彼女が何も手を考えていない訳もなく、すぐに代替案を口にする。


「無理ならそこは妥協するしかない」


「妥協って何をするんだよ」


 勇一がその作戦に興味を抱くと、由香はマジ顔になって男子2人をじいっと見つめる。


「私達も信者になる!」


「ええーっ!」


 このトンデモ案を聞いた勇一は、話のインパクトが大きすぎたのか思わず大声を出してしまった。当然図書室で騒ぎは厳禁なので、すぐに図書委員が眉を吊り上げて飛んでくる。


「ちょっと、静かにしてくれる?」


「ご、ごめんなさい!」


 図書室の責任者にシュウトはペコペコと平謝り。その態度に溜飲が下がったのか、図書委員はもう一度小言をこぼしてカウンターに戻っていった。


「まったく、騒ぐんなら出ていってくれるかな?」


「たはは……」


 彼のおかげで大事にならずに済んだところで、元凶を作った勇一が小声でこそっと話を続ける。


「入信はないだろ……俺はやだぞ」


「だから最後の手段だってば」


「最後の手段だとしてもだよ」


 その頑なな態度から何かを察したシュウトは、ここで友人の顔をじっと見つめる。


「勇一、迷信とか嫌いなんだっけ?」


「別に宗教を否定したりとかじゃないけど、これ思いっきり騙してるってはっきりしてるだろ?だからだよ」


「まぁ、そうなんだよね」


 勇一の意見に由香もコクリとうなずいた。そうして彼の意見を受け止めた上で改めて宣言する。


「だからさ、その最後の手段は出来るだけやらない方向で行くから」


「頼んだよ!作戦参謀!」


「おう!任しとき!」


 こうして第一回作戦会議は、多少の混乱を起こしつつも無事に終了した。話がまとまった後は、またしても由香達のラノベ攻撃がシュウトに襲いかかる。それは最近の図書室でよく見られる光景でもあった。

 最初は乗り気じゃなかった彼も、最近はどんどんラノベに興味が向き始めている。穏やかな時間は今日ものんびりと過ぎていくのだった。

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