インチキ教祖に忍術でお仕置きを

第130話 インチキ教祖に忍術でお仕置きを その1

 1月も中旬に入った頃、連絡を受けたいつもの2人がいつもの喫茶店でちひろから仕事の依頼を受ける。そこまではお馴染みの光景だったものの、その内容に2人は驚きを隠せなかった。

 あまりに衝撃的だったために、シュウトは思わず聞き返してしまう。


「えっ?」


「この最近CMでよく見る団体が?」


 由香もまたその話をすぐには受け入れられないでいた。今回の依頼もまた異世界融合生物犯罪組織絡みなのだけど、その犯罪の手口が今までとスケールの違うものだったのだ。


 その犯罪の手口は詐欺。詐欺をやらかした組織の今までにもあったものの、今回の詐欺は宗教絡みだった。新興宗教自体には色々なパターンがあってまともなものが多いとは言え、税金逃れのためとか、宗教をカモフラージュした紛い物も多いもまた事実。

 ちひろが持ってきた依頼もインチキ宗教絡みで、その元締が異世界生物融合体犯罪組織だったと言うもの。


 その宗教は本当につい最近出てきたポット出の新しいものだったものの、信徒に有名芸能人を多数抱え、今一番勢いのある宗教ともてはやされていたのだ。その勢いの強さに、そう言うのに関心のない中学生2人も名前だけは知っている。そう言う状況だった。


 ちひろは驚く2人を前に真相をあっさりと口にする。


「そう、本体はユードルなんだよ」


「許せない!多くの善良な人々を騙すなんて」


「おっ、今回は特に燃えてるね!」


 この件については何故か由香の方が感情を高ぶらせていた。そのヒートアップぶりにはちひろが目を丸くするほど。対してシュウトの方は、資料をじっくり読んでこの仕事の難易度の高さに頭を悩ませていた。

 彼がこの仕事を受けるかどうか判断に悩んでいる間に、由香は勝手に話を進めてしまう。


「私達が絶対にぶっ潰します!」


「ん?」


 まだ判断を保留していたシュウトは、この彼女の発言に驚いて資料を目にした顔を思わず上げる。流れ的に一方的に盛り上がってしまった話を、今更彼が止める事は出来なかった。


「お願いね!任せたから!」


 こうしてなし崩し的にインチキ宗教潰しの依頼は受理される。作戦を考えるのは由香の方だし、彼女が出来ると断言したならこの話に乗ってもいいのだろうとシュウトは強引に自分を納得させる事にした。

 憤っていた由香は、帰り道でもこの犯罪の悪質さを熱弁する。その熱いトークをシュウトは適当に聞き流していた。



 次の日、放課後の図書室で昨日の話に参加しなかった勇一に2人は改めて今度の仕事の話を伝える。彼もその宗教の事を耳にした事があったので、この衝撃の事実に昨日の2人と同じようなリアクションを返した。


「マジで?」


「それがどうもマジみたいなんだよね」


 シュウト自身もまだ半信半疑的な感じで、まるで他人事のような返事を返している。その宗教がインチキだと知ってしまうと途端に印象もガラリと変わり、勇一は頬杖を付きながら友人の顔をじいっと見つめた。


「でも何で騙されるんだろ?」


「いや俺に聞かれても」


 シュウト自身も宗教にハマる人の気持ちなんて分からないために、この質問にうまく答えられない。微妙な空気が図書室を支配していると、そこに神出鬼没のくのいちがいつものように突然現れた。


「人は何かに縋りたいもの……特に大人はね」


「うわっ、またっ」


 急に現れたのもあって、シュウトは驚いて思わず大声を上げてしまう。その様子を見ていた由香は、この訳知り顔の同級生に質問を飛ばす。


「ねぇ風。宗教団体を壊滅させるにはどうしたらいいと思う?」


「それはあなた達が考える事でしょ」


「うん、こっそり侵入して幹部だけをどうにかしたいんだけど、協力してくれないかな」


 由香は今回の作戦、隠密行動で事を成そうとしているらしい。そこで風の神出鬼没な技を欲しているようだ。そのアイディア自体は悪くなかったものの、肝心の彼女は当然にようにその要請を拒否していた。


「無理。私には私の役目があるから」


「近藤さん、彼女に話をしても仕方ないって」


 風に頼み事をする様子を見ていたシュウトは、少し呆れながら自分の意見を口にする。今まで彼女と付き合ってきて、有効的に協力してくれた事がほとんどなかったからだ。それでも由香は少しもあきらめずに彼女に強く話しかける。


「じゃあさ、私達にあなたの技を教えて!気付かれずに侵入する方法とか!」


 このリクエストを聞いた風の表情が急に変わる。それからその話題を出してきた彼女をにらみつけるように見つめてきた。


「付け焼き刃で?」


「出来れば一夜漬けで!」


 話に乗ってきたと手応えを感じた由香は、更に彼女を挑発するような言葉を投げかける。この言葉自体、本音と言うよりは風を本気にさせるための交渉テクニックのような感じだった。その戦略を見越したのか、それとも単に呆れてしまったのか、ドヤ顔で語る由香に対して、彼女は大きくため息を吐き出した。


「……はぁ。全く、お気楽なものね」


 風はそう言うと、そのまままたしても消えるように姿を消してしまう。時代劇だったらドロンという音と共に煙の演出が入るのだろう。彼女が消えてしまった瞬間、自分の作戦が失敗したと言う事で、由香は思わず声を漏らした。


「ああっ……」


「分かってただろ、こうなるって」


 落胆している彼女にシュウトが声をかける。由香はすぐに気持ちを切り替えると、自分を納得させるようにつぶやいた。


「うん、でもちょっと話してみたかったんだ」


「でもどうする?これは今までとはレベルが違うけど」


「そだね」


 相手が今までに何度も悪事を潰した組織だとは言え、今度は規模が大きくなってしまっている宗教団体。警備だって厳重になっている事だろう。いくらシンクロして向かったとしても、正攻法では組織の幹部のユードルを動きを抑える事は容易ではないはず。

 風とのやり取りで由香は隠密行動で依頼を成功させようと考えている事が分かったものの、それ以上の事はまだ不透明だ。


 そこで資料にある程度目を通した勇一が作戦担当に確認を取った。


「何かいい作戦はあるんだよな?」


「私達がラッキーだったのは、実際に行動を起こすのは私達じゃないって事」


「異世界生物パワーだな」


 由香には何か勝算があるらしく、勇一の質問に分かりやすく答えていく。


「それともうひとつは、相手がユードルって事。アイツラの事だからへっぽこに決まってる」


「確かに」


 ユードルが今までにやってきたとこと言えば、バスジャック、インチキブランド品の売買、転売屋、オレオレ詐欺――。どれも本気でやっていれば厄介なものばかり。それでもいつも詰めが甘くてシュウト達が潰してきた。

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