待ち伏せは近所の公園で
第98話 待ち伏せは近所の公園で その1
二学期の中間テストが終わった。結果については答案用紙が戻ってくるまで分からないけれど、手応えとしてはシュウトの顔から言ってあまり期待の出来ないものらしい。テスト後、図書室にやってきたいつものメンバーは、またいつものように雑談を始める。
「ふい~。疲れたあ」
「なっさけない、テストくらいで」
完全に力を出し切って灰になっている彼らに向かって由香が口を尖らせる。彼女は同じ状況でも精神的に余裕がありそうだ。同席していた勇一はそこまで気力をなくしてはいないものの、かなり消耗した顔はしていた。
「いや、テストって体力使うよ~?」
「真面目に授業受けてりゃ楽勝でしょ」
勇一の言葉にも動じる気配の見せない余裕レディの彼女に向かって、机に突っ伏していたシュウトは、顔を上げて弱々しく愚痴っぽい言葉を吐き出した。
「近藤さんはそうかも知れないけどさ~」
「はぁ、これじゃ今日はもう解散でいいかなー」
男子2人の情けなさにやる気を削がれた由香は、席から勢い良く立ち上がると、そそくさと帰り支度を始める。彼女が先に帰る事は滅多にないのだけれど、この行動に対して男子2人は傍観を決め込んでいて、特に止める素振りも見せなかった。
と、ここで何か閃いたのか勇一が声をかける。
「お、そうだ」
「ん?」
「今度由香ちゃんちで勉強しない?」
この提案に最初に反応したのは話しかけられた彼女ではなく、何故かシュウトだった。彼は赤くしながら焦ったような声で訴える。
「ちょ、ば、勉強ならここだろ常識的に考えて!」
「ああ、そっか」
「すぐに気付けよー」
そのやり取りにしばらくは言葉を返せずにいた彼女も、話が落ち着いたタイミングでようやく返事を返した。
「あ、ああ……うん。そうだよ、勉強ならここでやろうよ」
「うん?」
由香のその返事の仕方に違和感を感じたのか、ここで勇一が疑問の声を上げる。その反応に焦った彼女は彼に真意を問いただした。
「な、何?」
「もしかして、家でみんなで勉強したかった?」
「や、そんな訳ないじゃない!」
由香は顔を真赤にしながら大声で反論する。そんな彼女の顔を見上げて、勇一はその答えが当然のように振る舞った。
「だよなー」
「私、今日は先に帰るから!」
「あ、ちょ」
由香は改めてそう言い切るとスタスタと先に帰ってしまう。何か誤解が発生したように感じたシュウトは、せめてそれだけは弁解しようと声をかけようとしたものの、その声は求める相手を捕まえられなかった。図書室のドアが閉まったところで勇一が口を開く。
「怒らせたかな?」
「いや、分かんないけど……」
図書室に残された2人はその後、しばらくは無言だった。お互いに新聞に目を通したり、持参したラノベを読んだりと、する事が何となくあったからだ。
けれど無言の時間がしばらく続くと、やがてそれは退屈なものに変わっていく。やがてお互いに暇を持て余し、どちらが先に口を開くかと言う段階になった。
ここで先に口火を切ったのは、この集まりにまだ疑問の多い勇一だ。彼はラノベのページを捲りながら思いついた疑問を口にする。
「なぁ、依頼の電話ってのはいつも突然くるものなのか?」
「いや、流石に非常識な時間にはかからないよ」
「そか」
ここで話が突然ぷつりと途切れたため、シュウトはこの流れに違和感を感じて話しかけた。
「何だよ?」
「いや、救急の電話みたいに時と場所を選ばないのかと」
「んな訳ねーじゃん。大体、最初はそれが出来るかどうか聞いてくるんだから」
その疑問に彼が答えると、勇一は納得したようで小さくおおと声を上げる。そうして今度はまた別の質問が飛んできた。
「そっか、命令に絶対じゃないんだったよな。じゃあ拒否した事とかはある?」
「いや、それはないなあ」
「今度拒否ってみたらいいじゃん、試しに」
そう言うと勇一はいたずらっぽく笑う。取り敢えずシュウトも愛想笑いをして返すものの、すぐに真顔になるとそうしない理由を説明した。
「いや、近藤さんが絶対受けちゃうんだよね」
「何で?」
「色々欲しいものがあるんだと」
その理由を聞いた勇一は天井を空を仰ぐように見つめると、両手を組んで頭上に伸ばしながらつぶやく。
「物欲かぁ~」
そこからは会話も途切れ、またそれぞれに作業に戻ったものの、今度は新聞を読み終えたシュウトが口を開く。
「で、今日はどうする?」
「やる気も出ないし、俺達も帰るか」
「だなー」
テスト明けと言う事もあって、お互い何となく調子が戻らなかったので、今日はここでお開きと言う事に決まる。図書室を出た2人はそのまま一緒に帰路についた。
歩道をテクテクゆっくりと歩きながら、勇一が目線を合わせずに話しかける。
「なぁ、そもそもこれっていつ終わるんだ?」
「うーん、終わりはないと思う」
「じゃあどうすんの?学校とか、受験とか」
どうやら彼は将来の事を真面目に考えているらしい。逆にシュウトはその手の事をちゃんと考えた事が今までなかったため、返答に困ってしまう。
「そこだよなぁ……どうするかなぁ」
「ずっと異世界生物相手の警察みたいな事するんだったら、それってもう職業じゃん」
「う……確かに」
勇一のそのまともなツッコミに、シュウトは言葉をつまらせた。返事が上手く返せない彼を横目に、ツッコミは更に続く。
「一生こんな事するつもりなら、もう学校行く必要なくね?」
「で、でも……」
「中学出て働く職人の弟子みたいなもんでもいいんじゃね?食いっぱぐれないなら」
通学を卒業してずっと異世界生物融合体ハンターになる。この考えを提示されたシュウトは上手く言葉を返せず、ありたきりな定型文で誤魔化すので精一杯だった。
「ま、それは時期が来たら考えるよ」
「俺ら来年中3だべ、あっと言う間に時間は過ぎるぞー」
「うわあー。聞きたくねー」
耳の痛い話にシュウトは耳を塞ぐ。その後も勇一は厳しい現実を次々に彼に浴びせかけ、この帰り道はかなり精神的に辛いものと化してしまう。結局最後まで楽しい話を一言も話しかけられずに、彼は家に辿り着いた。
この時の会話がずっと心に残ってしまったシュウトはその後心配になってしまい、思わず仕事中のちひろに電話をかけて下校時の会話をネタに相談を持ちかける。
「と、そんな話をしてたんですけど……」
「うん、そうだね。ウチとしてはそれでも構わないよ。人材不足だし」
「ほ、本当ですか!」
帰り道の会話で出たプロの異世界生物融合体ハンターになると言う冗談のような話がそのまま受け入れられて、思わずシュウトは声が上ずった。そう言う道も悪くないのかなと彼が思いかけていると、彼女は更に話を続ける。
「でも飽くまでもそれは最終手段ね。大体、今学校に通えてるって事は今後もそれが出来るって事じゃない」
「そ、それもそうですね……」
正論をぶつけられたシュウトは思わず声が小さくなった。その反応を聞きながらちひろは彼に優しくアドバイスをする。
「高校も大学も、行けるなら行った方がいいよ。何ならバックアップもしてあげるし」
「わ、分かりました。じっくり考えてみます」
「うん、将来の事だから悔いのないようにね」
こうして話は終わり、通話は終了する。
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