第97話 嘘の電話にご用心 その5

「くそっ!話がうまく行き過ぎてなんかおかしいとは思ってたんだ!」


 全速力で走り去りながら、マーヴォはハメられていた事に対して捨て台詞を吐き出す。攻撃の隙を突かれ逃がすチャンスを作ってしまったユウキは、すっかり頭に血が上ってすぐに全速力で奴を追いかけ始めた。


「このっ!逃がすかーっ!」


「こっちだってお前ら対策をしていなと思うなよ!ハイパー加速っ!」


 先行するマーヴォはユウキに追いつかれそうになったところで足につけていた謎のユニットを稼働させる。その謎の機械はどうやら異世界生物融合体の身体能力を飛躍的に向上させる機能があるらしく、奴は従来のスピードの数倍の速さを見せていた。

 こうして一旦は手の届くところまで距離を詰めていた彼女も、後一歩のところでどんどん距離を離されていく。


「まさかあんなものを用意していただなんて……」


「ど、どうするの?逃げられちゃうよ!」


 計算が狂ってミヤコは動揺する。逃げられたとは言ってもまだそこまで距離は離されてはいない。今ならまだ間に合うと、改めてユウキは腕にありったけの属性の力を込めた。


「ならば、逃げられる前に討つ!鬼風ッ!」


「ちょ、ま……」


 その短絡的な行動を止めようとユーイチは手を伸ばしたものの、気付くのが一歩遅く、力は発動してしまう。ユウキの腕から発生した強力な風の力は全速力で逃げるマーヴォを的確に捉え、そのまま空の彼方に吹き飛ばしていった。


「うわああああああああああ!」


「先輩、どうします?」


 この顛末の一部始終を傍観していたミヤコは、小首を傾げてユーイチに指示を求める。ユウキの暴走を止められなかった彼はポツリと一言呆れ顔になりながら、ガクリと肩を下ろした。


「もうほっとこう。このパターンで見つかった試しがない」


「てへ、やりすぎちゃった」


 暴走した張本人はそう言うとわざとらしくぺろっと舌を出す。このコントみたいなやり取りを見たミヤコはかつてのランランでのやり取りを思い出し、クスクスと笑うのだった。そんな彼女?の仕草にユーイチ達もいつの間にかつられて笑っていた。

 それからこの事を上に報告して、今回の件はこれでお開きとなった。



 数日後の放課後、連絡があったのでまた2人は例の喫茶店でちひろを待っていた。5分遅れで急いで走ってきた彼女は、いつものようにニコニコと笑顔で椅子に座ったと同時に話を始める。


「うん、あれからユードルの詐欺はなくなったわね、またしてもお手柄よ」


「また捕まえられなくて……あの……」


 シュウトは今回の作戦の失敗を申し訳なさそうに彼女に謝罪した。するとちひろはさっきまでの表情を少しも崩さずに言葉を続ける。


「いーのいーの。作戦はうまくいったじゃない。それで十分よ」


「こ、今度こそ捕まえます」


「うん、期待してる」


 やはり今回も失態に対してはお咎めなしだった。それでも気が済まないシュウトは次の成果を彼女に約束する。ユードルの詐欺がなくなった事と、そう言う風に仕向けたシュウト達の頑張りを認めると言う用事を済ませたちひろは、コーヒーを一気に飲み干して、また忙しそうに自分の持ち場に戻っていった。


 帰り道、由香と2人で歩きながらシュウトは最近の依頼の成功率の低さを嘆く。


「何でいつも同じ結果になっちゃうかなぁ」


「ユウキの属性が風だから仕方ないよ」


 ある意味開き直りとも取れる彼女のその発言に、シュウトは真面目な顔で注文をつけた。


「これからは出来るだけ風の力は使わないような方向で頼むよ」


「でもさ、今回は仕方なかったんじゃない?逃げられそうになったんだもん」


 今回は敵の想定外の作戦に対応が間に合わなかった結果と言えなくない。これに関してはシュウトも彼女の意見に同意せざるを得なくて、思わず歩きながら腕を組んで考え込み始めるのだった。


「まさか対策をしてくるとは思わなかったなあ」


「だからさ、私達も人数増えたんだし、それなりの作戦を練らなきゃだね」


「だな。明日から色々と考えよう」


 敵も何度も同じやり方でやられてくれるはずがない。今度からはもっと柔軟な思考で、どんなパターンにも対応出来るような作戦を考えていかねばと2人は思いを新たにするのだった。

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