第67話 当たり屋愚連団 その3
「その日付は?」
「それが……明後日……なんだけど」
予想よりも早いその犯行日の予測にシュウトは驚きつつも冷静を装った。
「そっか、早いね」
「だからもしかしたら特定が間に合わないかも知れないんだけど」
そう言って申し訳無さそうな顔をする由香を見たシュウトは、彼女を安心させようとニコッと笑う。
「いいよ、その時は明後日は一日中見張っていようよ。近藤さんが良ければ、だけど」
「そりゃ絶対協力するよ!だって最近出た新しいブランドの服が超欲しいんだもん!」
彼から優しくされた事で不安から開放された由香は、いつものテンションを取り戻して今回の仕事を頑張る理由を口にした。
「……近藤さん、欲望に正直だね」
「えへへっ」
開き直った彼女の笑顔は真っ直ぐでまぶしいくらいだった。こうしてシュウト達2人の当たり屋融合体確保作戦は発動する。由香は引き続き作戦当日まで犯行発生時刻の絞込みを、シュウトは該当地区のパトロールを自主的に続けた。
結局当日までに具体的な犯行発生時刻は絞り込めず、その時の予定通り2人は朝からパトロールする事になった。家をいつもに時間に出た2人は、そのまま学校には向かわずに現場へと直行する。2人はまず荷物を近くの駅前のコインロッカーに預け、それから今日の行動について打ち合わせをした。
「また仮病を使ってしまった……」
「ねぇ、これ捜査の為だって政府の人から働きけるようにしてもらったらどうかな」
またしても依頼の為に学校をサボってしまった事を後悔するシュウトに、由香が声をかける。仕事を完遂する為に止むを得ず学校を休まないと行けない時に、政府のバックアップがあってもいいのではないかと言うその意見に彼も同意する。
「おお、その手があった……ってもう遅いよ。次からそうしてもらえるように働きかけてみよう」
「ちひろさん、協力してくれるかな?」
「多分、大丈夫じゃないかな?分かんないけど」
ただでさえ忙しそうなちひろに更に余分な仕事を押し付けるのは気が引けたものの、このまま学校をサボる日が続くとなるとその為の配慮は当然だろう。
2人はその後、どうやったら自分達の意見が通るかその方法を話し合いながら現場に辿り着く。
「ここだね、で、どうするの?」
「じゃあ、ふた手に分かれてパトロールしよう」
「了解しましたっ」
いくらエリアを絞ったとは言え、由香の想定したエリアは半径約300mとそれなりの広さはある。裏道に当たる場所なので道も相当入り組んでいるし、2人一緒にパトロールしていては犯人を取り逃がす可能性が十分にあった。
そう言う事もあって、シュウトと由香はバラバラで当たり屋を探す事にする。
シュウトは何回かこの場所に来ていたので、慣れた感じで道を歩きながら周囲を警戒する。当たり屋は車が走っていなければ意味はなく、朝のこの車の通らない時間帯から探し回るのはある意味勇み足だった。
時間だけが流れる中、彼は一向に成果が出ない事を嘆く。
「ふう~。何も起こらないなぁ~」
(長丁場だ。最初から力を入れ過ぎるなよ)
「そうだね」
一方、シュウトとは別の道を歩く由香も黙々と土地勘のない道を1時間程歩き回って早速不満を口にする。
「あ~もう、飽きたー!ひとりで歩き回るのつまらない~」
(やっぱりシュウト君と一緒に回りたかった?)
「そ、それは……」
突然ユウキに指摘された彼女は言葉に詰まる。その様子を楽しんでいる異世界生物は満を持して由香に話しかけた。
(話し相手なら私がなってあげる)
「そっか、ユウキ、有難う」
2人がパトロールを始めて3時間。定期的に連絡を取り合うものの、お互いに目ぼしい報告は出来ないままだった。シュウトは歩きながら、改めてこの静かで落ち着いた住宅街を歩いた感想を口にする。
「当たり屋と言う前に、ここら辺って車があんまり通らないな……」
(車のよく通る時間帯もあるんじゃないか?)
「だからって混雑する時間帯を狙うとも限らないよね」
(ま、焦らない事だ)
当たり屋が出没する時間は分からない。渡された資料によればその発生が夜中になる事もあるようだし、下手したら今回もそのパターンかも知れない。
色々と頭の中で考えを巡らせている内に、時計はランチタイムの到来を告げていた。
「グルグル回ってお昼になっちゃった」
彼は早速別ルートを歩いている由香に連絡を取る。こう言う事態は最初から有り得たのに、昼食について全然話し合っていなかったからだ。
「どうしよう?一緒にご飯食べる?」
「でもその間に隙が出来るから、別々にしようか」
「じゃあどっちから?」
彼女から指摘されてシュウトは少し考える。結果、こう言う順番に早いも遅いもないと結論付けた彼はレディファーストを提案した。
「近藤さん、先に食べる?」
「え、あ、うん」
こうして打ち合わせは終わり、先に由香が昼食を食べる流れとなった。あっさり先に食べる事を勧められた為、彼女は少し戸惑っていた。
けれどすぐに考えを切り替え、昼食を食べる為に踵を返して歩き出した。
(良かったの?これで)
「いいのいいの、じゃあ、さっき歩いていて見つけたあのファミレスに行くよ」
(ふふ、仰せのままに)
由香が昼食の間、ひとりでパトロールする事になったシュウトは、道行く人を丹念に観察しながら融合体を見分ける方法について考えを巡らせていた。
「うーん、融合体、もっと、こう、気配ではっきり分かるようになるといいのになあ」
(シュウトなら出来るはずだぞ)
彼のその言葉に、ユーイチがもっと自信を持てと言わんばかりに言葉をかける。自分を認めてくれるその言葉をシュウトは嬉しく思うものの、現実問題として自分の今の実力を彼は過信してはいなかった。
「いや、そりゃあ違う雰囲気は感じるんだけど、目の色を見ないと確証がまだ持てないんだよね」
(まだまだ修行を積まないとだな)
「だね~」
正午を過ぎた辺りから、この通りもある程度車が走るようになっていた。なので、もういつ当たり屋が現れてもおかしくない状況となる。この時に自分がその犯罪を防げなかったらきっと後悔すると、シュウトは朝の頃よりも念入りに融合体チェックに集中した。その間は全く空腹を感じる事はなかった。
気合を入れて歩いている中、スマホのバイブレーションに気付いたシュウトはすぐに耳に当てる。
「お待たせ、ご飯食べて来て」
「うん、分かった。しばらく頼むね」
「まっかせなさーい」
気前のいい由香の声に元気付けられた彼は、早速昼食を摂る事にする。お弁当を持参するとかしていないので、彼女同様に昼食は自動的に外食となる。
シュウトもまた昼食を食べるならここだと、パトロール中に決めていたお店があった。そのお店の前に立ち、彼は独り言をつぶやく。
「さて、余り食事で時間を取らせる訳にも行かないし、そうなるとやっぱりここだよね」
そこは早い、美味い、安いの三拍子のお店、そう、牛丼屋だった。時間は昼食のピークを過ぎたとは言え、まだまだ店内は昼食を摂る人達で賑わっている。
シュウトはひとりうなずいて気合を入れると、その戦場の渦中に赴くのだった。
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