第59話 空き巣を捕まえろ! その4

「え?そうなの?私の家では入れ替わってくれなかったから知らなかった。残念」


「あー、必ず入れ替わる訳じゃないんだ……」


 この由香の言葉に逆にシュウトの方が驚いてしまう。考えてみればやり取り次第で対応は変わってくるものだろう。今までは自分の認識だけで物事を判断していたけれど、人によってそれが違うと言う事をこの時彼はしっかりと胸に刻んだのだった。


 それからも話は弾んだものの、時間の方も予想上に早く過ぎたようで、やがて彼女の計算通りにパルマの連中がターゲットの家に近付いてくるのが確認出来た。


「あ、来た!」


「「シンクロ!」」


 入れ替わりが遅れて取り逃がす訳にはいかないと、2人は連中を確認出来た時点で同時に入れ替わる。こうして作戦は第二段階へと駒を進めた。


「ひいふうみぃ……驚いた、全員で来てるぞ」


「しっかり役割分担をしているんでしょうね」


 ゾロゾロと歩いてくるパルマの連中を目にしたユーイチとユウキはそうしている理由をそう想定する。いくら手練の2人でもパルマの構成員全員を相手にするのは少し骨が折れるだろう。

 まずは連中をどうやって捕まえるか、それについて作戦を練ろうとユーイチはユウキに声をかける。


「どうする?犯行を行った所を押さえるのか?」


「そんな必要もないでしょ。証拠を集めないといけない訳じゃないんだし」


「そうは言っても……って、おい!」


 話の途中でユウキは飛び出していった。確かにパルマを捕まえる事はもう確定事項で今更彼らの犯行を実証しなくてはいけない理由は何ひとつない。

 奴らが目の前に現れたら問答無用で確保すればそれでいい。今までのプロセスは全てその為のものだ。

 だからと言って、考えなしに連中の前に飛び込むのはあまりにも無謀過ぎる。ユーイチは慌て彼女の後を追った。


「パルマさあ~ん。ここで会ったが百年目ぇ~っ!」


「なっ、お前は!」


 空き巣に入ろうとその事しか頭に入っていなかったパルマは突然のこの招かざる来訪者の登場に、全員が一瞬動きを止める。

 しかし流石にここまで数々の修羅場をくぐり抜けて来ただけあって、奴さん達もすぐに対抗する陣形を取って目の前のユウキを倒そうとジリジリと距離を詰めていく。


「おおっ!やる気だねっ!」


「ったく、しょがない……」


 シュウトは彼女を援護しようとうまく裏道を通って連中の背後へと回り込んだ。挟み撃ちで倒そうと考えたのだ。ただし、この事を事前にユウキと話し合ってはいない。それがこの作戦の一番の致命的なミスに繋がってしまう事を今の彼はまだ知らなかった。


 ユーイチがパルマに背後から攻撃を仕掛けようとした次の瞬間、ユウキは前方に両手をかざし早速属性の力を発動させる。


「ひっさーつ、突風大行進!」


「わ!馬鹿!」


 彼女の両手から発動された強力な突風は前方の障害物を全て弾き飛ばす。それはパルマの背後にいたユーイチもまた例外ではなかった。まるでギャグ漫画のように彼を含む総勢9人は為す術もなく空高く舞い上がっていった。


「お~。よく飛ぶわあ」


 その様子を右手をかざして眺めながらユウキはお気楽に感想を口にする。またしても彼女は力を使う事を最優先してしまい、異世界生物を生け捕りにして捕まえると言う本来の目的を忘れてしまっていた。


 一方、一緒に飛ばされたユーイチの方はと言うと、ダメージを受けながらも何とか無事だった。かなり飛ばされた為、思いっきり腰を打ってしまい、20分程は体を動かす事が出来なかったけれど。


「アイテテテ、風で空に飛ばしたらバラバラになっちゃうって、どうして学習しないのか……」


 彼はそう言いながら何とか立ち上がる。飛ばされて来た場所はどうやらどこかの空き地らしい。家一軒分の敷地に雑草と幾つかの資材が転がっている。

 すぐ隣は民家になっていて、よく間違ってそっち側に落ちなかったものだとユーイチは胸をなでおろした。


 真っ昼間の出来事ではあったけれど、奇跡的に目撃者はいなかったようで突然空から人がふっとばされたにも関わらず、野次馬はひとりも集まってはいない。

 それは不幸中の幸いでもあった。


 彼が腰についた土を払いながら現状を確認していると、近くに一緒に飛ばされて来たパルマ構成員を発見する。


「あっ?」


 どうやらこの構成員、ユーイチよりも深いダメージを受けてしまっていたようで、伸びたままピクリとも動かない。


「仕方ないか、少しでも数は減らさないと」


 彼は倒れている構成員に少し哀れみを感じながらも、これも仕事だと割り切って倒れている奴に向かって一撃を加えようと振りかぶる。その殺気に気付いたのかこの瞬間、突発的に構成員は目を覚ました。


「ちょ、ま……」


「問答無用!」


 一度振り上げた拳を止める事は出来ない。結果、この構成員はユーイチの攻撃を受けて分離、見事に異世界生物を引き抜く事に成功する。


「さて、どうやって合流するか……」


 倒した異世界生物を肩に乗せるとユーイチはユウキと連絡を取り合って集合する。彼女の方も彼を探していたらしく、合流は案外スムーズに行われた。


「おーい!」


「あ、お土産持って帰ったんだ、やるね!」


「やるね、じゃないよ!少しは学習しろ!」


 久しぶりに元部下の失敗にお冠のユーイチはふざけた対応をしたユウキに雷を落とした。彼女は両手を合わせて精一杯の謝罪をする。


「ごめんごめん。反省してる」


「次から本当に頼むぞ」


 その後、飛ばされた残りのパルマのメンバーを2人で探すものの、結局誰ひとり見つからなかった。時間も遅くなり、今日はここまでだと2人はシンクロを解いた。

 仕方がないのでユーイチが倒したこのひとりを手土産に2人は事務所に報告に向かう。


「お、お手柄じゃない。ひとりでも成果があったなら十分だよ。勢力は削げる訳だしね。またよろしくね」


 ちひろはこれだけの成果でもいつものように喜んで受け入れてくれた。これで報酬が貰えるって事で、帰り道の由香の顔はほくほく顔になっている。そんな彼女は報酬の事は一言も口に出さず、まるでそれが正義の味方の義務のように自信満々な顔でシュウトに話しかけた。


「これでパルマの残りは7人。早く乗っ取られている人を全員を開放しなくちゃ」


「そうだね」


 彼はその言葉を白々しく受け取りながら、しかし言っている事は正しいので当たり障りのない返事を返す。全てが終わった後で時間を確認すると、ちょうど学校からの帰宅時間と重なっていたので、シュウトはまっすぐ家に帰宅する道を選んでいた。


 けれど由香の方はと言うと、途中で用事があると言って何処かに消えていった。報酬が入ったのできっと繁華街にでも寄り道に行くのだろうと、シュウトは楽しそうに歩いていく彼女の後ろ姿を遠い目で眺めるのだった。

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