第30話 打ち明けたシュウトと新たな出会い その4
「え?シュウ君の知り合いが仲間に?そっかぁ事情全部話しちゃったんだあ……。一応これ政府機密でもあるんだから今度から簡単に話さないようにしてね。事情が出来たらすぐに私に報告する事!それで仲間云々の事だけど私の一存では決められないから後で折り返し返事するね。多分大丈夫だと思うけど連絡行くまではどうか大人しくしていてね。問題が起こったら厄介な事になるかも知れないから。それじゃあよろしくー」
ちひろは一方的にまくし立て、そしてそのまま電話は一方的に切れてしまった。その様子を見て由香がシュウトに尋ねる。
「政府の人ってあの喫茶店に一緒にいた綺麗な人?」
「そうだよ、話し始めると中々終わらないのがちょっと困っちゃうんだけど」
彼女の質問にシュウトは苦笑いをしながら素直に答えた。その後はしばらく沈黙が続いたものの、やがて何か閃いたのか由香が突然口を開く。
「ねぇ、あの喫茶店、行ってみようか」
「な、何で?」
この突然の提案にシュウトは戸惑ってしまう。理由を聞かれた由香は少しだけ得意顔になって答えた。
「何でって行きたくなっただけ。お金なら心配しないで、奢ってあげるから」
どうやら喫茶店に行こうと言い出したのは彼女のただの気まぐれだったようだ。懐具合まで心配してくれた事に対してシュウトは少し得意気になって今の自分の状況を彼女に話す。
「いや、俺もこの仕事始めて資金には余裕があるんだよね」
「ふーん、じゃあ奢ってもらっちゃおっかなー」
彼女から奢るって話しかけて来たから、自分の分は自分で払うよって言う流れでシュウトは話したつもりだったのだけど、その時に資金に余裕があると喋ったせいで自分が奢る展開になってしまい、彼は少し焦ってしまう。
「ちょ、何でそんな流れに……まぁ、コーヒー代くらいなら構わないけど」
流れでシュウトが由香にコーヒーを奢る事になり、それを了承した事を受けて彼女はニヤッと笑いながら彼の背中を勢い良く叩いていた。
「ふとっぱらあ!」
実際、異世界生物退治で政府から得た報酬はそれで生活が出来るくらいのものがあったので、彼女にコーヒー代を奢るくらいは大した事ではない。
シュウトはコンビニATMでお金を降ろし、2人はそのまま例の喫茶店に向かう。相変わらずお客さんのいない喫茶店だったものの、時間が時間だったのかぽつりぽつりとコーヒー好きの人が椅子に座っている。
喫茶店に入った2人は何となく窓側の席に向かい合って座った。注文したコーヒーを待つ間、暇を持て余した由香はシュウトに話しかける。
「コーヒー、もう慣れた?」
「まだよく分からないよ……」
彼女の質問にシュウトは少し面倒臭そうに答える。まだまだ子供舌の彼はミルクと砂糖を入れないとコーヒーを飲めないでいた。
シュウトの返事を聞いた由香もまた自分も同じだと言い聞かせるように同意の言葉を述べる。
「だよねー」
それから軽い雑談をしている内に、注文したコーヒーが2人の前に並べられる。砂糖とコーヒーを入れてすぐに飲もうとする彼女に対して、猫舌のシュウトは砂糖とミルクを入れたカップを念入りにかき混ぜながら、自分のちょうどいい温度になるまで飲むのを待っていた。
その時、突然彼のスマホが鳴り出したので急いで取り出して相手を確認するとその相手はちひろだった。どうやらさっきの電話の返事のようだ。
すぐに通話を開始してスマホを耳に当てると彼女の明るい声が聞こえて来た。
「デートの邪魔かも知れないけどOK出たわよ!じゃあ彼女さんにもよろしく伝えといてね!」
「ちょ、デートじゃ……って言うかどこで……」
電話の向こうのちひろは何故かシュウト達の行動を知っていた。どこかで見ているのかと思って彼はすぐに周囲を見渡す。すると喫茶店の窓から彼を覗くニヤニヤ顔の彼女の姿を発見した。いつの間にか窓越しにこの様子を見られていたのだ。
窓ガラス越しにお見合い状態になって、シュウトは思わず声を上げてしまう。
「うわっ!」
ちひろにこの様子を見られてしまった彼は恥ずかしさで何も喋れなくなってしまった。向い合って座っていた由香は彼の様子を見て窓越しにちひろの姿を確認する。それで彼女に向かって軽く会釈をした。
「今度から打ち合わせには2人で来て頂戴。歓迎するわよ」
ちひろはそう言うと電話を切った。そうして窓越しに2人に手を振ってまた職場に戻っていく。一体いつから2人が喫茶店にいる事がバレていたのだろう。シュウトは色んな考えが頭の中を巡って頭を抱えてしまった。
一方の由香は去り際のちひろの仕草を見て大体の事を把握していた。
「あの様子だと公認されたみたいだね。陣内君、これからよろしく」
そう言う訳でこの件以降、シュウトに新しい仲間が加わる事となった。ユーイチもユウキも由香も乗り気で、この中でシュウトだけが余りこの流れを快く思っていなかった。
ただしそれは由香を心配する余りの事であり、彼女とユウキの実力を知る頃にはその心配が杞憂である事を実感する事になるのだった。
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