第29話 打ち明けたシュウトと新たな出会い その3
「あ、ああ……その可能性はあるな……」
残念ながらバラバラに逃げたユーイチの仲間達の詳細をユウキから聞く事は出来なかった。彼女の答えに一縷の望みだけを託して――。話をしていて彼の曇った表情を見たユウキはバシッと強めにユーイチの肩を叩いて言った。
「しっかりしてよリーダー!今何してるの!」
「今私はこっちの政府と組んで悪党退治をしている。事情はその少女も知っているはずだ」
ユウキからの逆質問に彼は今の自分の立ち位置を伝える。その答えを聞いた彼女は確信を得たようにニコっと笑いながら口を開いた。
「え?そうなの?こっちの世界に来ても相変わらずね」
「いや違う、取引したんだ、政府と。こっちの世界で暮らすために」
自分が自主的にそうした訳ではないとユーイチは事の経緯を素直に伝える。この答えを聞いてユウキはハァとひとつため息を吐き出した。
「……ああ、なるほど、そう言う事か。かつての反政府のリーダーも落ちぶれたものね……」
「君はどうするつもりだ?何なら……」
一旦話が落ち着いた所でユーイチはユウキに対して今後の身の振り方を質問した。まだこの世界に来て間もないなら、知らない事ばかりで戸惑う事も多いはずだと。彼女の為に出来る事は何でもしようと彼は思っていた。
「そうね……私もこっちに来たばかりだから……。じゃあ、あなたの仲間に加えてくれないかしら?」
「分かった。問い合わせてみよう」
ユウキがユーイチの仲間になるのは実は願ってもない事だった。今後どんな強敵が彼の前に立ちはだかるか分からない。戦力は多いに越した事はないのだ。
彼女が協力を申し出た事でユーイチは余計な説得をせずに済んだとホッとしていた。さっきまでの曇った顔が晴れて来たのを見て安心したユウキはユーイチに一言告げる。
「有難う。私、限界みたいだから戻るね、解除!」
言いたい事を言い終えたからなのか、本当に体が限界だったのか、ユウキはそのままシンクロを解いた。力が抜けてその場に倒れこむ由香をユーイチが素早く抱え込む。そうして安心したのかユーイチもシンクロを解く事にした。
「……私も戻ろう、解除!」
それから数分後、由香の意識が回復する。彼女は公園のベンチに寝かされていた。シュウトがお姫様抱っこでヒイヒイ言いながら工事現場から公園まで運んだのだ。その間は恥ずかしさでシュウトはフットーしそうになっていた。
幸い、移動中に誰にも会わなかったので変な噂が立つ事もないだろう。当然ながらこの苦労を彼女は全く知らない。
「あれ……?ここは?」
「公園だよ。少しは落ち着いた?」
意識が戻った由香にシュウトは今の気持ちを聞いてみる。
「何だかまだ夢を見ている気分だよ」
公園のベンチに寝かされていた彼女は、そう言いながら改めて椅子に座り直してシュウトに声をかけた。
「まさか陣内君が授業を抜け出すとは思わなかったよ」
「それはこっちの台詞。どうしてこんな事を……」
この由香の言葉に対してシュウトは改めて彼女がどうしてこんな行動をとったのか問い質した。この質問を聞いた彼女はニコッと笑って彼の顔をじっと見つめながら口を開く。
「私がゲートを調べるって言ったら絶対止められると思ったからね。予想通りだったよ」
どうも由香は自分がどれほど危険な行為をしていたのか全く自覚がないらしい。この言葉を聞いた彼はハァとため息を漏らす。そうして結果的に無事だった事もあったので、怒るのは一旦横に置いておいて、まずは彼女の中に入り込んだ異世界生物について聞いてみる事にした。
「ところで、あの異世界……」
最後まで言い終わる前に彼の言いたい事を理解した由香は、言葉をかぶせるように話し始める。
「ああ、ユウキの事?本当ビックリだよね、見た目は猫と変わらないんだもの」
彼女は体に入り込まれる前にユウキとしっかりコミニュケーションをとっていたらしい。この異常な状況をサラッと受け入れ、あっけらかんと話す由香のその姿に大物の片鱗を感じるシュウトだった。
「体に入られて違和感はなかった?」
「いや、それが全然。これって事情を知っていたからなのかな?」
体に入り込まれて全く違和感を感じなかったと言う彼女の言葉に、自分の体験を重ねあわせたシュウトは入り込まれた先輩として、由香にアドバイスをする。
「それは多分関係ないよ、俺の時もそうだったから」
「へぇぇ、そうなんだ」
シュウトの言葉に彼女は少し大袈裟気味に感心していた。彼はそんな彼女の反応をまたしても右から左に流しつつ、今後について彼女自身の意見を聞こうと口を開く。
「これからどうするの?」
「そこなんだよね。ユウキは陣内君の中のユーイチって人と一緒に行動したいみたいなんだけど」
ユウキの事情はシュウトもシンクロしている間に聞いていた。だからこそ、その宿主である彼女の意見を彼は聞きたかったのだ。そこでもう一度彼女自身はどうしたいのか意見を求める。
「近藤さんは?」
「私もここまで足を突っ込んでる訳だし、前に迷惑もかけちゃったから協力したいって思ってる」
この返事からどうやら由香自身もユウキと同じ想いでいるようだった。この返事を受けてシュウトは彼女の事情を案じる。
「でも文芸部とか図書委員の仕事もあるんじゃ……」
この彼の言葉に由香は即答する。
「文芸部は別に教室で執筆してる訳でもないし、週1で集まるくらいだから問題ないよ。図書委員の仕事も学校の時間の間だけの話だから」
つまり課外活動をするのに何の問題もないと彼女は言いたいようだった。その食い気味に話す言葉の勢いに彼はちょっとたじろいでいた。
「そ、そうなんだ」
「陣内君も学校をサボって仕事してる訳じゃないんでしょ?」
「う、うん、今のところはね」
この言葉の勢い、まるで彼女自身が積極的にシュウトの仕事を手伝いたいと言っているようにも感じられた。彼女に危険な事はさせられないとシュウトは最初、どうやって止めるように説得しようかとしていたものの、どうにもこのまま押し切られそうな感じになってしまっていた。
「じゃあ手伝わせて!ユウキ、本気を出したらすごいって自分で言ってたし!」
「えっと……うん、政府の人の聞いてみるよ」
自分ではどうにも止められない勢いを感じて彼は政府の人に止めてもらおうと考えた。どんなに彼女がやる気でも雇い主から拒否されたらそこでこの話は終わりになる。由香のやる気に水を差すようで悪いけど、シュウト自身は危険な事に女子を巻き込むのは避けたかったのだ。
「絶対いい返事をもらってよね!」
「あ、うん……」
最後まで彼女の勢いに押されるまま、彼はその場でちひろに連絡を取った。何回かのコール音の後に繋がったのを確認してシュウトは彼女に事情を話した。
するとすぐに例のマシンガントークが彼の耳に勢い良く届く。
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