第24話 貧乏な盗賊団 その3
由香の言葉に対してシュウトはところどころ不自然なほどテンプレ的な反応をした。それは周りから見たら何かを誤魔化しているのがバレバレな程だった。
そんなバレバレな反応に対して由香は一切疑問を抱かない。いや、きっと分かっていてそう言う反応をしていた。
「喫茶店のコーヒーって高いのに……陣内君って結構お金持ちとか?」
「えっ?いやその、親が知り合いで安くして貰えるんだよ」
「ふーん」
シュウトの分かり易い取り繕った返事に由香は余り興味が無いみたいにそっけない返事をしていた。この彼女の反応を見て自分でもこの話は信用されていないと彼自身が実感する事となった。
流石にこれ以上話し込むともっとボロを出しかねないと判断したシュウトは彼女からの鋭いツッコミが返ってくる前に強引に話を切り上げてその場を離脱する事にした。
「そ、それじゃあまたね!」
シュウトは由香に右手を上げてさよならのジェスチャーをすると早歩きですぐに彼女の視界から去っていった。本来なら彼の方からも彼女に対してどこまで気付いているのか逆に質問して状況を確認するべきでもあったのだけど、今のシュウトにそんな精神的余裕は存在しなかった。
ある程度の距離を歩いて彼女がついてくる素振りを見せないのを確認して、やっと安心して彼はため息を付いて歩みを止めた。
「ふう、やばかった……」
(いや、アレは確実にシュウトを探っていた目だぞ……)
「どうにかならないかな、もしバレたら彼女に危険が及ばないとも……」
(今は白を切り通すしかないだろう。取り敢えず行動は慎重にする事だ)
由香を巻いた事で緊張感の解けたシュウトはそれからまっすぐに自宅へ戻った。自分の部屋に入った彼はベッドに寝転がりながら、もらった依頼書を今度はじっくりと読み返していた。今度の敵は彼的に余り乗り気にはなれないものだったからこそ詳しい事を知りたかったのだ。
今回も政府の資料は敵組織について詳しく書かれている。本当にこの調査能力の高さは不気味な程だった。
「えーと何々、組織は孤児集団パルマと推測される……か。ユーイチは知ってる?」
(いや、初耳だ。子供達だけで集まった組織と言う事だから最近出来たものなのだろう)
「じゃあ今回は依頼をこなすだけなら簡単だね」
事態を楽観しているシュウトに対してユーイチはある懸念を持っていた。
そこで少し声のトーンを落としてその問題点を指摘する。
(そうとも限らないぞ、構成員の数は多いし油断は禁物だ。相手が子供だろうが数はそれだけで力になる、それに)
「乗っ取った体の持ち主は子供とは限らないから、でしょ」
(そうだ。心は子供、身体は大人。このパターンを想定しておいて間違いはない)
相手は見た目だけでは分からない。融合者はこれだから厄介だった。人は見た目につい騙されてしまう。油断しないようにしなければ……とシュウトは改めて思った。
ずっと2人で話していると寝る時間を過ぎてしまい、襲い来る眠気に負けてシュウトはそのまま眠りについた。
次の日の昼休み、依頼書を学校まで持ってきていたシュウトは誰も居ない図書室で依頼書の資料のページを広げて今後の作戦を練っていた。
それにしてもこの学校に向学心の高い生徒はいないのだろうか……毎日この教室に入り浸っているのは彼くらいしかいない。
だからこそ堂々とこんな極秘資料を学校の図書室と言う公共の場所で広げられる訳ではあるのだけど。
「しかしこの食い逃げのパターン、法則性でもあれば待ち伏せでもして現場を抑えられるんだけど」
(依頼書の資料に今までに被害の遭った店のマップが載ってある、そこで推理してみよう)
シュウトはユーイチの言葉に従って被害マップをじいっと眺めていた。何か法則性がありそうででたらめなようで……。こう言う分析があまり得意でない彼はすぐに思考が行き詰まってしまった。
頭をポリポリ掻きながら何とか打開策を見つけようとするものの、既にその思考が無限ループにはまりかけていた。
「うーん、これを見る限りは極狭い範囲で事件が発生してるな……そこから次の食い逃げを予想すると」
「ここが怪しいんじゃない?」
「そう、そこが……えっ?」
答えが見つからずに困っているシュウトに、にゅっと女子の手が伸びて来てまだ被害の及んでいない飲食店のひとつを指摘する。
その聞き覚えのある声に彼が振り向くと、その指の主が真剣な顔をして資料を覗き込んでいた。
シュウトはあまりにも集中していた為、彼女の接近に全く気付かなかったのだ。
「お願い、何をしているのか詳しくは分からないけど仲間に入れてよ!」
「こ、近藤さん?」
そう、シュウトの背後に近付いていたのは由香だった。先日の一件以降彼女はずっと彼を追い続けている。
由香を巻き込みたくないシュウトは何とか彼女に引き下がってもらおうとアドリブで下手な言い訳をした。
「ダメだよ、これは……えーと、とにかく素人が首を突っ込んでいいものじゃないんだ」
「へぇぇ……じゃあ陣内君はプロなんだ」
「そ、そうだよ……」
売り言葉に買い言葉になってしまいシュウトは思わず口ごもってしまった。
しかし報酬をもらっている以上プロと言っても間違いはない。ただ、自分がプロと言う自覚はシュウト自身も持ってはいなかった。
プロと言うのはもっとプロフェッショナルなものだと彼自身がそう思っていたのだ。
顔を真っ赤にして黙っているシュウトを見て由香はにやりと笑みを浮かべながら彼に言った。
「さしずめ裏でこっそり悪を成敗する正義の味方かな?」
「何だよそれ……ラノベとかの読みすぎじゃね?」
その由香の言葉にシュウトは無意識に思った事をそのまま口にしてしまう。
その言葉に彼女は敏感に反応し、気を悪くさせてしまった。
「あー、それ差別発言!文芸部だからって言うんじゃないけどラノベも"文学"なんです!」
「あ、うん、言い過ぎた、ごめん」
彼女のあまりの憤慨ぶりにシュウトは思わず反射的に謝った。ラノベを馬鹿にした発言ではなかったものの、そう取られてしまった以上下手に弁解するより非を認めて誤った方が早いと判断したのだ。
彼の謝罪に機嫌を直した由香は改めてシュウトが今しているこの行為に対して疑問を呈した。
「それよりその資料ってさ……多分極秘資料ってやつでしょ。こんな学校の図書室で堂々と広げていいものなの?」
「いや、逆に堂々としている方が気付かれないものなんだよ」
「で、食い逃げ犯を追ってるんでしょ?さっき私が示した場所、あそこ絶対怪しいから!」
シュウトの自説が受け入れられたのはどうかは分からないまま、話がまた元に戻った。このまま話を続けてなし崩し的に由香を関わらせてしまうのはまずいと感じた彼は彼女を怒らせない程度にやんわりと忠告をする事にした。
「あのさ」
「何?」
「こう言うのは今回限りにしてくれないかな?ほら、危ないから」
「大丈夫よ、危険な場所には近付かないからさ、それに……」
「え?」
由香は思わせぶりなところで一旦言葉を区切った。そのテクニックにシュウトもつい由香の方を向いてしまう。
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