第23話 貧乏な盗賊団 その2

 そしてすぐに気付かなかった事に反省もしていた。その罪滅ぼしの意味も込めて感謝の言葉を告げて、続く彼女の言葉を彼は素直に聞く事にする。


「何か分かったの?」


「食い逃げなんて新聞に載るほどのものじゃないけど……」


「そっか、有難う」


 彼女の言葉が途切れたのでシュウトは早とちりしてこの話題を終えようとした。

 けれどその次の瞬間、由香は目を輝かせて興奮した面持ちで話を続ける。


「多発していたら新聞にも載るのよ!これを見て!」


「えっ?」


 由香は自分の見つけた新聞記事を新聞を広げながらこれ見よがしにシュウトに見せつけた。

 そこにあった記事の見出しには多発する食い逃げ事件と書かれていた。記事によればここ3日前辺りから食い逃げ事件が多発しているとそう書かれていた。更に同じ日に食い逃げされたお店は1件や2件じゃないとも……。

 この記事を読んだシュウトは一旦黙り込んで頭の中で情報を整理する。そしてそこから想定した自分の考えをつぶやいた。


「これが事実ならこの別々の食い逃げ事件は何か関連があるのかも」


「私も少し気になってきちゃってさ」


「でもきっと警察が動いているだろうから、俺達は別にそんなに気にする事もないのかも」


「そうだよねー」


 由香がこの事件に興味を持ってもそれ以上深入りさせる訳にも行かないと考えたシュウトは事件は警察が解決するだろうと言う方向に話を持って行った。自分で話を振っておいてアレだけど。

 事件を新聞記事に書かれた内容しか知らない彼女もまた彼の意見に同意した。


 由香にはそう言ったものの、事件の現場に遭遇したシュウトは犯人が融合者だと言う事を知っている。

 最悪の事態を想定して彼は頭の中で考えを巡らせていた。


(もしかしてこれらの食い逃げ犯がみんな融合者だとしたら……)


(後でちひろさんに連絡してみよう)


 思いを口に出さずに心の中でユーイチと話した結論に従って、放課後にシュウトはちひろに電話をした。いつも詳しい融合者犯罪情報を掴んでいる政府関係者ならば、この事件でも何か詳しい事を既に知っているのではないかと考えたのだ。

 2コールで電話に出た彼女はいつものマシンガントークで彼の期待にしっかり応えてくれた。


「ああ、それね!裏が取れたら資料をまとめて依頼しようかと思ってたところなのよ!先に動くなんてやるじゃない!成長して来た証かな?」


「いや、たまたま食い逃げ犯を目にしたからですよ。それよりやっぱりこれらの事件は繋がっているんですか?」


「うーん、どうやらそうみたい。でも食い逃げをする団体なんてね……よっぽど貧しいのね」


 ちひろも今までと違うこの異世界犯罪者について同情に近い言葉を漏らしていた。

 電話が終わって、シュウトはこの事件に関して感じた疑問をユーイチに質問する。


「向こうの世界ってそんなに貧困が蔓延してるの?」


(この世界と一緒だ。富める者もいればそうでない者もいる)


「そっか……。戦う事になったらちょっと可哀想かも」


(奴らは犯罪者だ!罪を犯した者に情けはいらない!)


「ユーイチは融通が効かないなぁ」


 彼の話によれば異世界もこちらの世界と同じように貧富の差があるらしい。もしかしたら戦争や理不尽な搾取とかもあるのかも知れない。

 ユーイチの言った"この世界と一緒"と言う言葉がシュウトの頭の中をしばらくの間ぐるぐると回っていた。


 次の日、依頼書が出来たと言う事でシュウトは例の喫茶店に出向いていた。勿論学校があるので向かったのは放課後だ。学生の下校するそんな時間帯の喫茶店はそれでもお客さんがいなかった。このお店はいつお客さんが入るんだろう?

 いつもの席にいるちひろを確認してシュウトも座り慣れた席に当たり前のように座る。彼が座るやいなや彼女は出来立てほやほやの依頼書をシュウトに手渡した。


「資料が出来たよ!早速これを読んで!」


「あ、どうも……」


 彼女が嬉しそうに書類を渡してくる。シュウトはそのテンションにちょっと引き気味になりながらそれを受け取った。

 渡された依頼書を斜め読みしながらシュウトはポツリと呟くように言葉を漏らす。


「やっぱり捕まえなきゃいけないんですよね」


「どしたの急に?いつもはやる気に溢れてるのに」


 このシュウトの反応にちひろは不思議そうな顔をして答える。いつもなら依頼をこなせば報酬を得られると言う事でどんな依頼内容でも特に深く考えずに彼はその依頼を引き受けていた。それなのに今回はこの反応。彼女が疑問に思うのも無理はなかった。

 その疑問に対してシュウトは依頼書を読みながら彼なりの考えを口にする。


「今回は組織的とは言え、その規模が小さいじゃないですか」


「食い逃げだって立派な犯罪よ。見逃せる訳ないじゃない」


「そう……ですよね。分かりました」


 ユーイチと同じ事をちひろからも言われたシュウトは無理矢理に納得する事にした。どんな事情であれ、犯罪は犯罪には違いない。

 自分は言われた事を実行すればいい、そこから先の判断はもっと上がする事だと。


 シュウトが無理やり自分を納得させていたその時、喫茶店のドアが開いた。


「あら珍しい。この時間に私達以外にお客さん」


「え……っ?」


 ちひろの声にシュウトも驚いてその方向を見る。それは確かにお客さんだった。深い帽子を被ってマスクをしたお客さんは入口近くの席に座る。自分達以外のお客さんを彼はこの時に初めて目にしていた。

 しかしこのお店はいつ繁盛しているんだろう?相変わらずこの店は謎が多かった。


「じゃ、私はもう事務所に戻るから、後はよろしくね」


「あっはい」


 シュウトがそのお客さんをもっとはっきり確認しようとじっと見ていたら、全てを話し終えたちひろが喫茶店を出て行った。

 突然の来客で思考がかき乱されていたシュウトは、彼女の挨拶に焦って適当な相槌っぽい反応しか出来なかった。

 そもそもシュウトがそのお客さんに注目したのはそれがただ物珍しいからじゃなくて、ちゃんとした理由があったのだ。


「あのお客さん、もしかして近藤さんなんじゃ……?」


(依頼のやり取りそのものは見られていないはずだ、出る時は何も知らないふりして店を出よう)


 そう、あのお客さんは由香にそっくりだった。一応すぐにはバレないように私服で帽子を深く被ってマスクまでしていたけど、それが逆に怪しさ満点である意味バレバレだった。シュウトのこの心配に対して、ユーイチは冷静にアドバイスする。その言葉を受けて店を出る時は出来るだけ冷静を装おうと彼は決意した。

 コーヒーが彼の猫舌の許容する温度になった時、由香らしきお客さんにもコーヒーが運ばれていた。急いでコーヒーを飲み干したシュウトはもらった依頼書を鞄に仕舞ってそそくさと喫茶店を出る。


「陣内君!」


 喫茶店を出てうまくやり過ごせたなとひと安心したところで、その後すぐに喫茶店を出た彼女の方から声をかけて来た。

 やっぱりあのお客さんは由香だった。声をかけられたシュウトは一瞬ビクッと反応したものの、彼女を無視する訳にも行かず、すぐに冷静さを装って振り向いた。


「や、やあ、奇遇だね」


「あのお店の常連なんだ?中学生で喫茶店通いなんてすごいじゃない!」


「あ、うんそうなんだ。やっぱりコーヒーは喫茶店だよね。あの味を知ったら缶コーヒーなんてもう飲めないよ」

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