第25話 貧乏な盗賊団 その4

 見つめ合う形になっても少しも顔そらさずに彼女はニッコリと笑って言葉を続けた。


「陣内君強いじゃない?何かあっても守ってくれるでしょ?」


「いつもそううまく行くとは限らないよ。だから」


 そのあざと過ぎる言葉攻撃にシュウトはすぐに顔を逸らしながら彼女の言葉をそれとなく否定した。彼女が危険を感じてくれないと今後も危険な事に関わらせてしまいそうで、それだけはどうしても避けたかったのだ。

 その彼の態度から何としても自分を関わらせたくない意図を由香は読み取り、それに対する打開策を訴えた。


「分かった分かった!仕事の邪魔をする事なんてしないから!その代わり後でちゃんと詳しい事教えてね!」


「なんで……」


 シュウトは何故由香がそこまで自分に対してこだわるのか理解出来なかった。いくら理不尽な目に遭ったとは言え、普通ならまた同じような目に遭わないように距離を取るものだろうと。由香があの時完全に逃げてしまっていたなら彼女もそんな態度を取ったかも知れない。

 けれど彼女はしっかり戻って来て異世界生物を彼が倒したのをしっかり見ている。だからこそ由香は彼を信頼しているのだ。

 くどいようだけどその事をシュウトは知らない。彼が見られた自覚がない事も彼女はその態度から読み取っていた。


「前に私危ない目に遭ったんですけど?何で黙っているのかな?」


「分かったよ、後でちゃんと話すから……ただし、条件がある」


 この由香の言葉から弱みを握られたと思ったシュウトは渋々彼女の言葉を受け入れる。受け入れはしたものの、ただ素直に話す訳にも行かなかった。

 何しろこれは彼ひとりだけの問題ではないのだ。守ってもらいたい事は守ってもらわないと真実は明かせない。

 このシュウトの言葉に由香は呆れ気味にこぼした。


「この期に及んで?」


「これから話す事を絶対秘密にしてくれるって条件。守れる?」


「ふふ、守秘義務ってやつね!任しといてよ!」


 シュウトの口から出た条件が想定内のものだった為、由香は興奮気味に胸を叩きながらその条件を受け入れる。その古典的なリアクションに彼は思わず苦笑してしまった。こうして臨時的に由香は強力な協力者になって食い逃げ犯の確保に対して協力する事になった。

 彼女の適切な判断力はシュウトの苦手分野を補い、やがて効果的な犯人確保のプランは出来上がった。


 放課後、彼女と練った確保プランに従ってシュウトは一番危険度の高いと想定される飲食店へと向かった。その店はこの地域で5番目に美味しいと評判の中華料理店だ。

 さて、本当にここで事件は起こるのか――半信半疑ながらも彼は店の前でしばらく張ってみる事にした。


「近藤さんの推理が正しければ……」


 シュウトが店の前で張ってると物の10分もしない内に店内から大声が聞こえて来た。


「く、食い逃げだァ~ッ!」


「ま、まさかのビンゴ?!」


 店内から声が聞こえて来たその直後、店のドアが開いて3人の融合者が次々に店から飛び出して来た。この結果に彼は一瞬びっくりして体が動かなかった。それでもすぐに正気に戻ってすぐに食い逃げ犯に声をかける。


「お、おい!待てっ!」


「……」


 まぁ、待てと言われて待つ犯罪者なんていない訳で。食い逃げ犯はシュウトの言葉をまるっと無視してそのまま逃げ続けた。

 このまま逃がす訳にも行かない彼は早速ユーイチに体の主導権を渡す。


「くっ!シンクロ!」


「やっぱり!変身したっ!」


 この様子を期待を込めて見ていたのは由香だった。彼女はシュウトにバレないように離れたところからずっと観察していたのだ。

 全ては彼が変身するその瞬間をこの目でもう一度確認する為!気付かれないように遠くからその瞬間をカメラで何枚も撮影していた。


 そしてまたしてもその事に気付いていないシュウトは、シンクロしてユーイチに変わると融合者の食い逃げ犯を追いかけていた。融合者の運動能力はこちらの人間の何倍もの能力だ。同じ融合者同士になれば走り去る相手にも追い付く事が可能になる。

 食い逃げ融合者達は自分達を追いかけてくる存在が同じ融合者だと知って驚いていた。


「お前、俺達と同じ……」


「観念しろ!その体を早く人間に返すんだ!」


「じゃあ先にお前が返せよ!そうしたら俺達も返す……」


 自分達と同じ融合者なのに自分達の味方でないユーイチを、食い逃げ犯罪者達は敵だと認定して彼の説得に反論した。その反論はまさに子供らしい幼稚なものだ。

 しかもその反論を最後まで言い切る前に振り返って今度は攻撃を繰り出して来た。


「よっ!」


 食い逃げ実行犯のひとりがユーイチに対して蹴りを繰り出して来た。ユーイチはすぐにその足を捕まえて地面に叩きつける。そのたった一撃で犯人は気を失った。きっとまともな格闘経験すらないのだろう。相手が複数と言う事もあって彼はすぐに倒れている相手にとどめの一撃を加えた。

 流れるような手際で見事に異世界生物と人間の分離に成功する。残りは後2人!


「あれ?」


 この結果に残りの2人は唖然としてしまっていた。まさか自分達がこんな簡単に倒されるとは思っていなかったようだ。所詮は子供の集団である。

 その様子を見てユーイチは残り2人に対して自分の感じた事を話した。


「感じた所お前達はまだ未熟だな……。だから大人の身体に潜った」


「くっ!でも数はこっちの方が多いんだよっ!」


 このユーイチの言葉にキレたひとりが勢い良く彼に向かってくる。

 しかしそれは単純で分かりやすい子供らしい攻撃だ。ユーイチは余裕で彼の攻撃を読んでその攻撃に対して適切な位置取りをする。

 心の余裕も含めてユーイチがこの食い逃げ犯に負ける要素は何ひとつなかった。


「おおおーっ!」


 大声で叫びながらデタラメに腕を動かす食い逃げ犯の腕をユーイチはスルッと捕まえてやっぱり同じように地面に叩きつける。

 戦闘経験の差はダメージを受けた時の耐久力にも如実に現れる。この食い逃げ犯もこの一撃でさっきの犯人と同じように伸びていた。

 また同じように素早く分離攻撃を繰り出して異世界生物と分離させる。一連の作業を機械的にこなしたユーイチは残りのひとりに対して上から目線で余裕の一言を告げた。


「うん、そうだね、で?」


「あ、あの間に2人も……。おい!ヨッテル!ティバリ!」


 この言葉からユーイチが倒した相手の名前はヨッテルとティバリと言う事が判明した。ただ、どちらがどちらなのかそこまでは分からない。

 ユーイチはジリジリと残りひとりとの間合いを詰めていく。最後のひとりは見るからに緊張した面持ちで彼の間合いに入らないように後ずさりしていた。


「君で3人目かな?」


「くそっ!覚えてろよっ!」


 力では勝てないと悟った食い逃げ犯は不意をついて逃げ出した。その行動も想定のひとつだったユーイチはすぐに奴を追いかけた。

 必死で逃げる食い逃げ犯だったが、力の差は歴然ですぐにユーイチは追いついていた。


「逃さないんだなあ」


 逃げる食い逃げ犯の服を掴んだユーイチはすぐにそのまま放り投げ、またしても地面に叩きつけた。叩きつけられた食い逃げ犯はうめき声を上げてそのまま気を失う。


「うごっ!」


 結局は3人共大体同じ方法で呆気なくユーイチに倒された。そしてまたすぐに分離処理。数が多少多くても彼の敵ではなかった。

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