第12話 司法取引 後編

「まさかこんな所で会うとはね」


 体を入れ替えて最初に口を開いたのはウララだった。

 どうやらウララは女性だったらしく、ガタイのいい中年男性の口から女言葉が出るのはまるでそっち系の人が喋るようで入れ替わる前との違和感も半端無かった。


「ウララ……さっきの話は本当なのか?」


「いきなりご挨拶ね……まずは再会の挨拶じゃないの?」


 ウララはそう言って怪しげに笑う。相手が渋いオネェ状態になっても、入れ替わった後ではそれも普通の事のように受け入れられていた。お互いが入れ替わった状態なのでこの状態に違和感を抱く事もなかったからなのだろう。

 ユーイチはウララに対し、過去の事を責め始めた。


「君が私達に何をしたか……忘れたとは言わさないぞ!」


「あなたの活動が法に触れたから、私は職務に従っただけなんだけど?」


「くっ!」


 ウララの言葉にユーイチは次の言葉が出てこない。ウララは法に従っただけで何も間違った事はしていない。確かに正義は向こうの側にあった。


「で?どうするの?私としてはどっちでもいいんだけど」


「本当なんだろうな?」


「ええ勿論。貴方がこちらの世界にいる限り、貴方はこちらの法の元保護されるわよ」


 ウララはそう言ってにやりと笑った。そして、すぐにこう付け加えるのも忘れなかった。


「ただし――協力してくれたら、の話だけど」


 その言葉には、拒否した場合にはどんな手を使ってもユーイチを追い詰めると言う気迫があった。自分の不利を悟った彼は彼女の言葉に従う事にする。

 自分を追い詰めた存在を目の前にして、ユーイチには最初から選択肢なんてなかったのだ。


「分かった」


「交渉成立ね、良かった。ここでまた貴方と戦う事にでもなったらと思うとヒヤヒヤしたわ」


「つまらない冗談はやめろ」


「冗談?とんでもない。私は貴方の実力を買ってるのよ。でなきゃこんな交渉する訳ないじゃない」


 この会話から察するに、過去にこの2人は大規模な戦闘をやらかしたらしい。

 多分ユーイチはその戦いに負けたんだろうけど、向こうの世界でかなりの破壊を尽くしたんじゃないかと心の中にいるシュウトは想像した。


「私は無益な戦いはしない」


「それでいいわ」


「解除……」


 交渉成立と言う事で、2人はほぼ同時に心を入れ替えた。体が戻ったシュウトは、今後の事について慶一郎に質問する。


「それで……まずはどうすればいいんですか」


「連絡は私の方から定期的に行う……君はその依頼を受けてくれるだけでいい」


「依頼……」


「なぁに、難しい事じゃない……。無法者を退治してくれるだけでいいんだ」


「方法は?」


「それも追って詳細を連絡するよ」


 つまりは細かい事はまだこれから詰めると言う事だった。この話を聞いて、政府の物事の進め方にしてはあまりにも大雑把だとシュウトは思った。

 100%納得した訳ではなかったものの、シュウトはこの条件を飲む事にする。


「分かり……ました」


「御協力、感謝する。それじゃあ今日はここで失礼するよ」


「どうも……」


 話を終えて慶一郎は帰っていった。彼が帰った事で心配していた母カズミがシュウトの前にやって来る。


「シュウ君、どうだったの?」


「母さん、大丈夫だよ。あの人怪しい奴じゃなかった」


 母を心配させまいとシュウトは慶一郎の事を説明する。その後に今後の事も彼女に話した。


「多分後で連絡来ると思うけどさ……俺、あの人の依頼でちょっと仕事をする事になったから」


「えっ!なんであなたに?危なくないの?」


 仕事と聞いて、母から予想通りの反応が帰って来た。まだ彼女にはシンクロの話をしていなかったから当然ではあった。シンクロの話はまた後で話すとして、ここは慶一郎が政府の人間だと言う事を強調してお茶を濁そうとシュウトは思った。

 細かい事を話してこの会話を長引かせるのもただ疲れるだけと判断したからだ。


「そんな危険な事にはならないんじゃない?あの人政府の偉い人みたいだし」


「だといいけど……何かあったら母さんに絶対言うのよ!」


「分かってるって」


 かくしてシュウトとユーイチの悪人退治の日々が始まる事になる。

 この悪人退治の話を聞いたシュウトは少し胸を躍らせていた。ユーイチとシンクロして悪人を倒すって、まるで物語のヒーローみたいで面白そうだと。

 それとは逆に、ユーイチは首根っこを掴まれた形になって居心地の悪いものを感じていた。

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