押し付けられた仕事

司法取引

第10話 国家権力

 チンピラ異生物からの恐怖も去り、シュウトは家に向かって帰っていた。帰りながら今回のこの出来事についてユーイチと語り合う。


「もしかしたらこれからあんなのに度々遭遇する事になるのかな?」


(その可能性は否定出来ないですね……)


 シュウトの質問にユーイチはさらっと言い放った。ただ、シュウトも対抗策がある事で安心して話を続ける。


「でもユーイチがいれば安心だよね。あんなパワーが出せるんだもん」


(でもあれは君の体に負担をかけるって……)


「分かってるよ。鍛えてない俺があんな力を出したら危険だよね」


(だから出来ればもうシンクロは……)


 しつこく念を押すユーイチ。シュウトはその彼の気持ちも分からなくはないと思いながらも、少ししつこいかなとも思っていた。

 なので強引に話の方向を変えてみる事にする。今度はユーイチ自身の事について聞こうと考えたのだ。


「分かってるって……ところであんなに強いって事はユーイチは実は結構強いの?」


(……まぁ、それなりの心得はね)


「やっぱり!そうだと思ったんだー」


(今回は相手があんなチンピラだったらかうまく行っただけですよ)


 謙遜するユーイチ。しかしシュウトは彼の底のしれない実力を感じ取っていた。それはまさしく多少の事なら何とかなるだろうって大きな安心感に繋がるものだった。

 安心した彼はふと図書室で読んだあの新聞の記事を思い出した。


「新聞記事にあったって事は、そろそろ大きな騒ぎになるのかも」


(これからは慎重に行動しないとヤバイですね)


「異世界のみんなとももっと仲良く出来ればいいんだけど……」


 そこまで話してシュウトは少し考え込んだ。この混乱を回避する方法が何かないか――そこである方法を思いついた。


「例えば……向こうの政府的な所と公式に国交を結ぶとか……」


(私はお尋ね者だから、そうなったらシュウトも犯罪者になってしまいますが……)


「ええっ?それは困るなぁ……」


 今後どう言う風に話が進むにせよ、シュウト達の未来は決して明るくはないようだ。結局チンピラ異生物のせいで立ち読みの時間は潰されて、そのお楽しみは明日に持ち越す事になった。


「ただいまー」


 いつものように母親に帰宅の挨拶をすると、母カズミが手招きをしてシュウトを呼んだ。それは何かいつもとは違う普通ではない雰囲気だった。


「何?」


「シュウト、貴方にお客さんが来てるわよ」


 シュウトはこの来客に全く心当たりがなかった。何の予定もないし、しばらくその人物について想像を巡らせてみたものの、彼の中から答えは出てこなかった。


「誰?」


「知らない大人の人。知ってる?」


「え?」


 この母の言葉を聞いてシュウトは少し嫌な予感がした。なのでそっとその待っている人の様子を遠くから伺ってみる。

 サングラスを掛けたガタイのいいスーツ姿のその男に、シュウトはまるで心当たりがなかった。


「……知らない人なんだけど」


「やっぱりね……」


 シュウトの答えに母も何か思うところがあったようだ。そこで彼女はシュウトに今度はどうするか尋ねる。


「どうする?追い返そうか?」


「あの人は何て言ってるの?」


「何か大事な話があるって」


 その母の言葉を聞いてシュウトはこの謎の来客に興味をもった。なので母に彼についてもう少し詳しく聞いてみる事にした。


「お母さんから見てあの人をどう思う?」


「まぁ、そんな怪しい感じはしなかったけど……」


「じゃあ、会うよ」


 シュウトは母の感性を信じ、この男と会う事に決めた。いつも決断に時間がかかるシュウトだったけど、ここはほぼ即決で答えを出していた。


「えっ?でも……」


 母は会うと言うこの返事に驚く。普通こう言うシチュエーションって、警察を呼んででもお引取りをお願いするパターンのはず。

 いきなり現れた心当たりのない男に会うって言うのは、母の想定にはないものだった。


「心配ないって……多分」


 心配する母をなだめるシュウト。相手が話の通じる人物なら、もしかしたら何か有益な事を話してくれるのかも知れない。

 まだ止めようとする母を横目にシュウトはその男に挨拶をする。


「こんばんは……」


「ああ、君がシュウト君だね、突然押しかけて来てすまない」


 シュウトを待っていた男は見た目のゴツさと裏腹に爽やかに挨拶をする。その言葉遣い、雰囲気には誠実さがあふれ出していた。

 ああ、これは確かに怪しくはなさそうだなとシュウトも思った。


「あの……、俺に何か用ですか?」


「そうだ……突然で悪いが、話をさせてくれないかな」


「はい……えっと、長話じゃなければ」


「はは……。分かった、有難う。そうそう、私はこう言う者だ」


 男はシュウトに名刺を渡す。名刺には内閣特別調査室顧問 平山 慶一郎と書かれていた。


「えっと……けいいちろう……さん?」


「そうだ、よろしく」


 慶一郎はそう言って手を差し出して来た。その差し出された手にシュウトも思わず手を差し出していた。流れで2人はガッチリと握手をする。この人は何気に人を乗せるのが上手いタイプかも知れない。

 シュウトは少し警戒しながらも話を進める。


「で、あの……要件は何でしょう」


「ああ、そうだったね。では単刀直入に言おう……君の中のその存在についてだ」


「え……っ?」


 この人はユーイチの事を知っている!

 でも何故?どうして?


 シュートは慶一郎の言葉に軽く混乱してしまった。

 でも国の諜報機関的なところならば、そのくらいの情報収集も当たり前なのかも?とも思っていた。

 きっとしらばっくれても無駄なんだろうな、そう考えたシュウトは覚悟を決める。


 すぅー……。


 はぁー。


 深呼吸して気持ちを落ち着かせる。気持ちが落ち着くと色々と聞きたい事も沢山頭に浮かんで来た。


 よし!


 気合十分になったシュウトは自分から攻めていく事にした。こう言う交渉事は相手に飲まれた方が負けだって前に漫画で読んだ事がある。

 何かの試合に望むような気持ちでシュウトは口を開いた。


「あの……いいですか?」


「何かな?」


「俺達に何をやらせようと言うんです?」


「はは……いきなり直球だね。話が早いのは私も好きだよ」


 慶一郎は軽く笑うとすぐに真面目な顔になってシュトをじっと見つめた。彼がその後に語ったのは、ただの中学生にとってはすごく重い言葉だった。

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