第8話 力が欲しいよ 中編
「待ちやがれこのやろーっ!」
チンピラ異生物はおちょくられたと思っておかんむりだ。なのでどこまでもしつこくシュウトを追いかけた。こう言う手合は理屈なんてどこにもない。ただ感情のままに行動する。
その無軌道な行動原理がシュウトをさらに精神的に追い詰めていた。
「何で?俺あのおっさんに何もしてないのに!」
(落ち着けシュウト!無闇に逃げても消耗するだけだ!)
混乱するシュウトをなだめるようにユーイチが声をかける。追われている同じ当事者とは言え、心の中にいる分ユーイチは冷静だった。
「そんな事言ったって……あっ!」
無計画に逃げてきたシュウトの目の前に壁が迫ってきていた。逃げる時にルートを確認せずに次々に曲がりくねって逃げ回って来た結果がこれだった。
「行き止まりーッ!?」
取り敢えず他に道がないかシュウトは急いで周りを見渡した。
しかし振り返った時、男Aがやってくるのが目に入って――彼は絶望した。
「へっへっへっ……追いかけっこは終わりだぁ……」
「あわわわわわ……」
ブン!
混乱するシュウトに向かって男Aが突然殴りかかってきた!大ぶりで殴りかかって来たのでシュウトは何とかそれをかわす事に成功する。
ドガッ!
殴った衝撃で行き止まりの壁に大きな穴が開いた。こんなの普通の人間ではありえない。
「む!」
コンクリートの壁にめり込んだ拳を引き抜く男A。拳を抜いた時、パラパラとコンクリの欠片が地面に零れ落ちる。
これだけの事をしておいて痛がる様子を少しも見せていない……。これはどう考えたってまともじゃない。
この異常事態を目にしてシュウトは怯えながら言葉を漏らす。
「俺が何を……」
「じゃかましい!その目が何か気に食わないんだよ!」
飛んだとばっちりだった。この異常な男に対してどう対処していいのか――こんな体験が初めてのシュウトには答えが出せなかった。
とは言っても、こんな相手にひ弱な中学生が力で対抗出来るはずもなく……。
つまり選択肢としては逃げるしかない訳だけど、それがもう逃げられそうになかった。
何故ならシュウトは男Aの攻撃射程範囲内に入ってしまっていたからだ。
「動くんじゃねぇぞ……」
「は……はは……」
ゆっくりと近付いてくる男Aの気迫にシュウトの全身の血の気が引いていく。さっきみたいな大ぶりなら何とかまた避けられるかも知れないけど、きっとそれも何度もは続かない……。
シュウトはうまく間合いを図りながら全神経を集中させていた。
(何で……何でこんな事になっちゃったんだよ……)
この場所は人気のない裏通りの外れの行き止まり……。大声を出したって余り意味は無いだろう。
いや、この場合、大声を出した瞬間に狙われるかも知れない。何せ相手は人間の実力を遥かに超えたバケモノなのだ。
この男の行動を人間の常識に当てはめて判断するのは危険過ぎた。
(シュウト、こいつ……)
「ああ、分かってる。まともじゃない」
(いや、それもそうだが……乗っ取られている)
「は?」
ユーイチの言葉にシュウトは目が点になる。もしかしてあの男の異常の原因を彼は知っている?
ユーイチは自分の見解を次のようにシュウトに説明した。
(アレはあの人間の元の力じゃない……。私と同じ異生物が精神を乗っ取ってるんだ……恐らくあの性格もその生物のものだ)
「そ、そんな事出来るの?」
(出来る……が、アレは無理やりだ……。危険過ぎる……)
ユーイチは男の異常さの原因とそのリスクをシュウトに説明する。ここまで聞いた彼はユーイチにある提案をする。
「じゃあさ……ユーイチも同じ事出来るんでしょ……助けてよ」
(しかし……危険なんだ……。これをすると宿主の君に負担がかかる)
ブゥン!
男Aの拳が空を切る。この一撃はかなりシュウトを窮地に追い込んだ。
「うわあっ!」
「コラアッ!逃げんなっつってんだろ!」
二人が会話をしている最中にも執拗に男Aは攻撃を仕掛けてくる。さっきの攻撃でシュウトは頬にかすり傷を負っていた。
このままでは男Aの攻撃が直撃するのも時間の問題――もうあまり時間に余裕はなかった。
「ここで悩んでる時間なんてある?」
(分かった、仕方ない……。今回だけだ!)
シュウトの要請にユーイチも心を決める。
(それじゃあ合図を頼む!君の一言で心を合わせよう)
「分かった!」
ユーイチの言葉に、シュウトは何て言えばいいか合図の言葉を考えた。事態は急を要している――のんびり考えている余裕なんてなかった。
でもこう言う時ほどいいアイディアって閃くものなんだよね。シュウトはすぐにその閃いた言葉を合図として叫んだ。
「シンクロ!」
その言葉を合図にシュウトの心とユーイチの心が同期する。
「なんだぁ?」
突然叫ばれた側の男Aはその気迫に一瞬気が怯んだ。
「ハッタリなんて効かねぇんだよ!」
一瞬怯んだものの、すぐに攻撃を再開する男A。その化け物じみた力で繰り出された拳が、再びシュウトを襲う。
ブゥン!
パシッ!
その拳を片手で軽く止めるシュウト。そう、二人の心のシンクロは無事成功したのだ。
もしかしたらこの切迫した状況がシンクロを成功させたのかも知れない。
「さあ、反撃の開始だ」
そう言ったシュウトの顔はうっすらと笑っていた。
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