第6話 ~歓迎遠足 その2~

「・・・おい、待て佳樹よしき!」

「へっ、遅いなぁテニス部」

「黙れ陸上部短距離選手」

「うっわー前山まえやまクンがあんなに小さく見えるぞぉ~?」

「__内田うちだ。お前もテニス部のくせになぜそんなに上にいる」

「はああ~~~~、男子どもなんでそんなに坂道速いの?」

「基礎体力の差じゃね?というか男女差でけぇだろうし」

「いや、りょう。こいつ男子だぞ忘れんな」

「あ、そうだった」

「内田と古泉こいずみあとから処刑ね」

おれ・古泉亮とともに岩永いわながに処刑宣告された智明は、軽く頭を掻きながらまた坂道を登り始めた。


 いまは歓迎遠足の真っ最中。ここは九十九岳の中腹あたり。なぜこのような会話に行きついているのかというと。

「・・・絶対これ、あとから怒られるよな・・・」

「どうした古泉。それも承知で来たろ?」

いやどうしたもなにも。「周り見ろよ。中3だらけだぞ」 

 歓迎遠足では、中2、中3、高2、高3、高1、中1の順で学校を出発する。基本的に追い抜きは禁止。だが何しろ先頭が中2女子である。遅いのだ。3年間でその遅さに懲りた おれたちB組男子約10名+岩永と、A組&C組男子若干名+小山で、高2高3の先輩方を追い越して坂を走っているのだ。おれは最後まで反対するも、内田に引きずられていく形で連れていかれ今に至る。数人の脱落者は出したものの、現在14人。隊列も組まぬままひたすら走り、叫び、他学年を蹴散らしていく大変迷惑な団体になってしまった。


 しかし、その楽しい(?)遠足もそろそろ終わりを迎えようとしていた。九十九岳の山頂付近にある広場まであと300mという看板を見つけたからだ。先陣を切っていたA組の同じデニス部である田村たむらかけるがその標識に気づき、はたと足を止めた。おれたちの最後尾である岩永と小山が追い付いてきてから、14人全員で顔を見合わせる。

「・・・待つか?」

「・・・だな」

誰かともなくそう言って、道の片側の通行にならない場所に避けた。


 それから待つこと1時間。ただひたすらに高1の先頭を待ち続けた。先輩たちからは変なものを見るかのような目で見られるわ、先生たちからはあとから叱ってやろう感満載の目で睨まれるわ、後輩からはどこか憐れむような目で見られるわ、とにかくいろんな人の視線が痛かった。

「なんか高校の見知らぬ先生方が怖い目してこっち見てくるんですけど」

「小山。気のせいだ。」

「いや絶対気のせいじゃないし明らかにブラスの副顧問の先生こっち見てたし」

「明らかに放送部の副顧問がこっち見てにやりとしたように見えたのもきっと気のせいだからそっちも気のせいだよ」

「・・・・自分、軽く絶望してきたかも」

「海里の絶望リミッターどんだけヘボいんだよ!」


 1時間後、高1の先頭の見慣れた顔を見たとき、全員がほっとしたが、その次の瞬間、一瞬にして絶望の色に変わった。

「お前らあああああ!!!!何故こんなところにいるうううう!!!」

「「「「「「「ひいいいいいいいい!!!」」」」」」」

1年の生活指導の先生が周りが山で近所迷惑にならないのをいいことに盛大に怒鳴り散らし、おれたちは悲鳴を上げた。

 それから20分ほど、みんな揃って説教を食らったのは言うまでもない。とはいえ、そのあとすぐに解放され、歓迎行事はちゃんと見ることができたし遊ぶこともできたので結果オーライである。


 自由時間に、山頂付近の広場で亮たちテニス部仲間と遊んでいると。

「あらぁ~。先ほど先生に説教食らってたヴァカが遊んでいらっしゃいますね~」

誰かと思ってみると立花たちばな彩乃あやのたち放送部勢である。

「立花その口調どうした」

「なんかあいに勧められた本でこんな言い方してる人いたから真似した」

「どうよ彩乃に合うよね?よね!」

「全然合わねーよ岩永」

というわけで放送部3人とテニス部の座談会を開始した。メンツはいつもの<会合>とほぼ一緒だが、場所が場所だから新鮮だった。今回の内容はほとんど今日説教された人間たちの話でかなり盛り上がった。


 説教はされたものの、それなりに、というかかなり楽しい歓迎遠足だった。来年もまたしたいな、と岩永がつぶやいたが、当然のごとく全員で全力で止めた。


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*ー*-*


 今年は特に仕事がなかったから、みんなと走って山登った。海里以外全員男子だった(笑)

 さすがに最近運動してないから疲れた。足の裏にマメできちゃったけど楽しかった。もう来年も再来年も仕事があるからできない。反省はしてるけど後悔はしてない。

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