第5話 ~歓迎遠足 その1~

 九十九つくも岳。標高555メートル。

 私たちN中・N高生は、毎年4月にこの不思議な名前の山に登る。なんでもN中ができたことで中高一貫になった年からずっと行われているようで、先輩が新入生を歓迎するのとクラス内の親睦を深めるとかいう目的が一応はあるらしい。実際のところは、女子は仲のいい数人の友達とお菓子を交換したり駄弁ったりして時間を潰すわ、男子はクラス単位で登らなければならないとかいうルールを完全無視してそこそこにきつい坂をダッシュで登り始めるわで、毎年親睦の「し」の字もない有様だけど。

 今日はその、通称「歓迎遠足」と呼ばれる日。山頂では高2高3の暇な先輩たちによる歓迎の劇とか吹奏楽部の演奏とかが予定されているが、山頂に着くまでは単なる山登り。

 登校してすぐに学校指定のダサいジャージを着て、忘れ物がないか自分の荷物を確認しようとしたとき。

「あっれれ~?立花たちばなちゃんおっかしいな~~?」

「そーいう小山おやまちゃんも、持ってきてるでしょ~?」

顔も上げずに私は返事をする。小山海里かいりは4年間クラスが同じの腐れ縁だが、正直あまり好きなキャラではない。それでも人間というのは不思議なもので、だんだん他人に「合わせる」ということを学んでいくのだ。

「そりゃあそうよ。小山ちゃんもお菓子持ってきてるでしょ?」

「だってわたしブラスの先輩の分もあるし」

「あ、そっか。ブラスも今日は仕事ないのか」

「放送部もないよね。藍が言ってた」

小山と藍は小学校から今まで、なんだかんだで仲良くやっているらしい。どっちも変人だからそりゃあ合うでしょ。

「じゃあ、お互い今日は楽しみましょーよ」

「うん。じゃあ」

小山はそのまま、A組の親しい女子のもとへ走って行ってしまった。

 今日は仕事がないし、存分に楽しもう。

 立花彩乃あやの密かに心に決めた。


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*


4月22日(Fri)

 歓迎遠足があった。

 今年は仕事がないから楽。彩乃も美里もお菓子持ってきてた。

 集合が早くて少し焦ったけど大丈夫だった。

 来年からは仕事入るから遊べない(涙)

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