第3話 ~放課後の或る部室にて~

 別に厄介な人が多いわけじゃないから、まあ大丈夫っぽい。担任も悪くない。また彩乃とは同じクラスになれなかったけど、部活で会えるし。長かったホームルームもようやく終わる。

 午後3時30分。私・上村美里うえむらみさとは帰っていく新しい同級生たちを見送ってから、席を立つ。高校生になってから新しくしたリュックを背負い、教室を出る。


 ___着いた。ここだ。もう二十日ぶりくらいだろうか。中学校の教室よりは少し距離が近くなった。私はその重い防音扉を体当たり気味で押すと、「がちゃ」と聞きなれた音が鳴り、扉が開く。

「こんにちは~」

「あ、美里先輩!むっちゃ久しぶりです!」

「おお美里ちゃん。来たねえ」

「美里遅いよ~もう中学生たち発声練習終わっちゃったし」

ああ、ここだ、と思った。大小たくさんのカメラ、三脚、バッテリー、赤白コードにマイクコード、中継のためのスクリーン、体育祭用のスピーカー、大きなアンプとミキサー、アナウンスマイクにたくさんのCDやDVD。たくさんのパソコンに歴代の先輩たちの原稿や資料。この放送室は、私の、私たちの居場所だ。

「美里お久しぶり~」

「あれ昨日会わなかったっけ」

「あ。そうだったカラオケ行ったんだった」

「藍はまだ?」

「うん」

中学校の時からの部活仲間であり友達・立花たちばな彩乃あやのに私は向かいなおす。アナウンス担当の彼女には、部活だけでなく精神的にも何度も助けてもらった。

「高1も復帰したことだし、新入部員獲得のためにも頑張らなくちゃね」

部長である宮原みやはら先輩が言う。

「じゃあ、それぞれの活動に戻ります!解散!」

「「「「「「「「「「やあっ!」」」」」」」」」」

そうやって私たちは、それぞれの番組の企画や発声練習、滑舌練習などに励む。私も久々に発声練習をしたかったので、放送室をでて中庭に向かう。

 中庭につくと、そこにはすでに先客がいた。

「藍?」

「お!美里!やっほー!」

岩永藍はクラスでも十分壊れているが、部活での壊れ方はえげつない。朗読担当で、私たち高1のもう一人の部員。

「美里ー!伊織いおりは結局はいるの~?」

「入らな~い!水泳部だって~!」

結構遠くにいるので、かなりの声量でほぼ叫ぶようにして会話をする。

伊織というのは池上いけがみ伊織ちゃんのことで、下の名前の字面からしてよく男子と間違われるらしいけど、かなりの美人。今年はA組で私と同じクラス。

「へ~!!わかった~~!!」

「じゃあ発声するね~!」


まずはロングトーン。次に連続発声

あ、え、い、う、え、お、あ、お、お、あ、お、え、う、い、え、あ

短音練習は一つ一つ区切って。

それから「れろれろれろれろ」って言い続けたり、校歌を歌ったり。


 この庭でする発声練習は、うちの学年では藍が断然うまいけど、私もこの発声練習が好きだ。自分の声に向き合う、みたいな。

 久々の発声練習でだいぶ鈍っていたけど、それでもそれなりに納得のいく声が出せた。


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*


 久々の部活。今日は例の<会合>もなかったから遅れなかった。後輩たちも先輩方も元気そうだった。やっぱり伊織は放送部に入らない。少し淋しいけど甘いこと言ってられない。後輩も見てるし。気を取り直して頑張る。

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