つよく

ここ最近、祖父母に会っていなかった。一カ月ほどだろうか。


つい昨日、枝豆をくれるというので顔を出すと、祖母が満面の笑みで両手を広げて待っていた。生き別れて数十年、くらいの力で二人でかたーく抱き合い、「ひさしぶりだねー!」「そうだねー!」と再会を喜び合う。




昔、誰にも言えずに落ち込んでいたとき、父と母には言えず、祖父母の家に行った時のことを思い出した。




慰めてもらおう、なんて思わなかった。

ただ顔を見て元気をもらおう、無条件に甘やかしてもらえたらしょんぼりしていた私も満足するだろう、と思ったのである。


根は暗いが表向き、私はけっこう社交的である。

最初こそ祖父母の前で最近あった事をおもしろおかしく話して笑わせていたが、途中、なにか関が切れたように涙が止まらなくなった。

思った以上にためこんでいたものがでかかったらしい。


声が出なくなり、だからといって大声で泣き叫ぶだけの開き直りもできず、ただただ無言でダバダバ泣いていた時の気持ちは今でも鮮明に思い出せる。


おろおろする祖父母。ついでに叔父。

唇引き結んで泣き続ける私。


感謝しているのは、そこで誰も、私が泣く理由を問い詰めなかったことだ。


真っ先にやってきた祖母がずっと、「かわいそうに」と言いながら私を抱きしめてくれた。「この子が泣くんだよ、よっぽどのことがあったんだろう」と。抱え込むように私の頭を抱きしめながら、左右にゆらゆら揺れて子供のようにあやしてくれた。


祖父はチラチラこっちを見ながらクロスワードパズルをしていた。


「よしよし」と背中をとんとんしながら私を抱きしめ、左右に揺れる祖母。

祖父のエンピツの音。


涙が止まるまで、あと30分。







祖母を抱きしめながらふと思った。


つぎ、私がどうしようもなく落ち込んだ時に、この人はいるだろうか。



―――いなかったら?



その時私は、ちゃんと、自分の力で復活することができるだろうか?


いやいや。

違う、「復活できるか」ではない。

「しなくてはならない」のだ。



強くならなくては。


強くならなくては。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る