夏だ! ホラーだ! 田舎の子!!
全国津々浦々よくあることですが、うちの祖父母の家は田舎です。度合いでいうと、最近まで水洗トイレがなかった程度の田舎です。あの旧便所には昔から泣かされたわー。木の板の床にね、四角く穴が空いてるの。トイレットペーパーなんかありませんよ、ちょい柔らかめの四角い紙が前に積まれてあるのがトイレットペーパーです。
穴の中を覗いても暗黒が広がっているだけでなーんにも見えません。
一応、落っこちないように、踏ん張った目の前にワラで編んだヒモがあって握れるようになってたんですけど、アレいつの頃でしょうか、なくなってました。
最近になって父の友人であるオッさんが
「昔遊びに行ったとき、夜中片足踏み外して便所にハマりそうになったんだよな。で、ヒモ、咄嗟に掴んだら千切れちゃった☆ ヤベェ怒られると思って証拠隠滅のために黙ってました」
と白状し、真相が判明致しました。大人気ねぇ……。
そういうレベルの田舎には当たり前ですが、お墓は土葬です。
山の中をずーっと分け入った所に一族の墓地があるのですが、こんもりと土が盛り上がってるところに享保だか元禄だかの年号が刻まれた墓石がごろんごろん置かれているのです。私の曾祖父母も例外なく土葬で葬られております。
んで、その曾祖母。
父親がばあちゃんっ子でして、「今もしょっちゅう夢に出てくる」(父親談)。
曾祖母が亡くなったすぐ後に私が産まれたということもあり、父方の親族の中では「ハムは曾祖母の生まれ変わり」として定着しております。
会ったことがなくても、自然と愛着を持って育ってきた不思議な方なのです。
私が3歳のとき、1人で高いお山のてっぺんにある池まで彷徨い出るという奇行をおかしたことがございまして、幼児の足で到底行けやしない場所を大人が探すわけがなく、行方不明として大騒ぎになったことがあったんですよね。
てんやわんやの中、叔父がお池を探しに山を登っていると、先からスタスタ私が歩いてくる。仰天して、
「どこ行ってたんだ!?」
と聞けば、
「お池」
と答えたと。加えて、
「でも、みんな心配してるから帰りなさいって着物のおばあさんに言われたの」
お礼を言わねばとそのまま道を登って池へ到達した叔父ですが、そこには誰もいない。
ちなみにお池までの道は一本。
……こえー。
そのことを親族の元へ帰って打ち明けた叔父、
すくみあがった親族みな、
「婆さんだ……」「間違いねえバアさんだ……!」
となったそうな。愛着が暴走して婆さんが神になった瞬間です。
この時の体験もあり、私は祖父母の家へ行くたび、個人的に山を分け入って曾祖母の墓へ参ることにしております。
その日も山を分け入って墓地へレッツゴー。
長年歩いてきた道なので、すり減って無くなりかけてるところとかあるけどなんのその。漆とか生えてるところがあるけどなんのその。獣道とかそこら中にあるけどなんのその。蛇とか出てくるけどなんの……さすがに蝮は勘弁してください、なんのそのどころじゃないです。
墓までの道って地味に危険です。
よく、半袖短パンの田舎小僧とかアニメに出てきますが、山に行く時本物の田舎の子はあんな格好しません。生死に関わる。
ムカデのへばりつく墓石を横目でスルーしつつ、ちょっと小高いところにある曾祖母の墓を目指します。例外なくこんもりと盛り土されている墓は、誰が見たってザ・土葬。線香をあげ、その場にしゃがんでどっちが頭なのかなーとかとりとめのないことを考えてみます。古墳とかエジプトのピラミッドなんかはその方角が重要だったようですが、こんな片田舎にもそういう風習は残っているんでしょうか。学術的興味をそそります。そういえば大学の日本史の宿題はテーマなんでもいいから5枚のレポートを提出することだったなー。この際この墓を調べてレポートにしてもいいかもなー。とりあえずばーちゃんの葬られた向きはどうなんだろう。あ、こっちに歯があるから頭がこっちらしい。こっちの方角ってひが……
HA?
2度見しました。人生で初めて2度見しました。アニメみたいです。いえアニメじゃありません、三次元で超真面目な2度見という事態が発生する異常事態です。
そこには確かに歯がありました。一本とかそういう騒ぎじゃありません、全部揃ってます。しかも、しかもね、肉があるんですよ。ピンクのやつ。歯茎。土の中から鮮やかなピンクが出てるその光景の異常なこと異常なこと。半分土に埋まってるのが悪夢的です。こう、言葉にするのをためらうものが地中から這いずり出てきたような悪夢を連想させます。マジかよ婆ちゃん……今になって現世出てきちゃったのかよ……!
はい絶叫。
帰りの道筋とか覚えてない。とにかく走った。人生で一二を争うハイスピード。これが公式試合ならボルトもはるか後ろに置いてったくらいの驚異的なタイム。ばあちゃんちに駆け込んで、命からがら直面したホラーを説明したよね。歯が、歯が……! って。「ばあさん、出てきてしもたんか!?」と慄くばあちゃん、「夢だけでなく現実でも出現すんの!?」と慄く父ちゃん、「あらぁ…」と痛ましい顔の母ちゃん、ハッピーターンを頬張るじいちゃん。もうね、この場で幸せなのはじいちゃん1人ですよ。墓から人が出てこようとしてる時すらね、誰かを幸せにできるハッピーターンって偉大。
これを読んでる方は大体のオチが想像できてると思う。だって亡くなって二十年経とうとしてるばあさんにピンクの歯茎があるはずがないもんね。そんなことすらね、「ばあさん復活!!」って言葉に脳みそ支配された私は気付かなかった。「魔王信長復活!!」よりよっぽど怖かった。いっそのことね、信長が復活することでばあさんの復活を止められるなら、信長に加担しようとね。思うくらいには、怖かったわ。
要は、入れ歯だったんです。私が見たの。
しかもそれ祖母が入れたやつだった。
「あの世で満足にものも噛めないとかわいそうだからねぇー。不便だからねぇ、歯がないと……」
…………………………まぁ……そうだネ。
「後でまた埋め直しとくわ」と言われて、とりあえずその場は収束しました。
ちなみに後日日本史の講義で提出したレポート、「多様化する副葬品〜我が家における事例の考察〜」
数日後。
墓に詣でるとね、入れ歯はなくなってた。なくなってたけど、今度、ボロボロになった歯ブラシが出土してた。
みんな婆さんの歯、心配しすぎ。
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