第11話 汚さ

「フフフ、殺す? そのちんけなナイフでか? 俺のことをナメてんじゃねえぞ……。こっちはお前たち人間とは違ってな、トロくねえーんだよ!! どうせお前を殺せないなら、逃げるまでだ。」

 化け物は少女の姿のまま、その場から立ち去ろうとした。しかし、急に「う!……ぁぁ」と苦しみだした。それを見た少年は「やっと、か」と呟き、こう言い放った。


「さっき、お前をナイフで切ったときに毒を仕込んでおいたんだ。普通の人間なら即死するんだがな……お前には効くのが遅かった。ていうか、神経毒しか効いてない様子だな。どう、俺のオリジナルブレンドの毒の味はいかがかな?」


「ど、毒だと……キサマには最初から俺と真面目にり合う気はなかったという訳かぁあぁ!!」

 化け物は狂乱し、怒号を飛ばしていた。


「そういうことだ。10秒間、俺を殺させたのも、お前を暴れさせて毒が体に回るようにしたのさ。そうしないと、お前を殺すのは容易ではなかったと思うぜ。そろそろ、毒が循環して体が動かねえだろ?」

「…………」


 化け物は言葉すら発せられぬほど毒が体に回っていた。

 ただの人形のようになった化け物に少年はこう言う。


「お前は馬鹿にしていた人間に手のひらの上に転がされて、これから殺されようとしている。おばあさんを殺していなければ、お前はのうのうと生きていけただろうな……でも、お前は人間に手を掛けた。どんなに人間より優れた身体能力を持とうと、獣はいつだって人間に殺され続けてきた。なぜだと思う? なぜ人間はそいつらに勝てたと思う? その答えは人間がズルく汚く、すべてを破壊する本当の獣だからさ。だから、人間は食物連鎖の頂点に位置づけられている。でも、お前にもお礼を言わなきゃな、偽物とはいえアーシャにもう一度遭わせてくれた……ありがとうよ。せめて楽に殺してやる―――」


 少年は私の持っていた剣を奪い、化け物の頭を剣で潰した。そのときの少年の表情は慈愛に満ちていた。


 私は彼の名前を呼ぶ

「―――ウィル……さん。」

「え?なに、何で名前知ってんの?」

「だって、化け物が『ウィル』って呼んでたじゃないですか、だから、名前なのかなと思って」

「話聞いてたのか。何もしないから……てっきり精神的にイカれちゃって、話聞いてないのかと思ってましたよ」

「私はこれでも騎士ですよ! これぐらいで音をあげているようでは、まだまだです!」

「あっ…そうですか。じゃあ未熟な騎士さんにお願いが……」

「未熟な騎士ではないですが……お願いって何です? まさか、タラデル城に同行するのが嫌になり、見逃してくれと言うんですか?」

「そうじゃないです。ただ疲れちゃって、もう限界―――」

 ウィルさんは急に倒れ込んだ。


「え?えーーー!! ちょっと、ウィルさん、ウィルさん!!」

 私はウィルさんを起こそうとしたが、どうやら意識を失っているようです。

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