第10話 安徳
大軍に囲まれる安徳の城邑。
義経軍から 一人の男が歩みでた。
平知成だ。
城門までよろめきながらたどり着く。
義経軍の大弩弓が知成を狙っていた。
「卑劣なり、義経!」
「あ、開けてはなりませんぞ」
時子は安徳にすがる。おびえきっていた。
「尼は草薙の剣をまもっておればよい!」
陣頭指揮の安徳は激昂していた。
「お前たちは騙されている!」
知成が叫んだ。
「安徳は女だ!」
城内にどよめきがひろがった。
「草薙の剣を持つ資格はない!」
知成は叫びつづけた。
「我らをたばかりつづけた安徳を廃し、同じく頼朝に国をおわれた義経と力を合わせようではないか!もはや源氏も平氏もない!恨みを忘れてともにこの地を平らげようぞ!」
「知成の言ったとおり、いかにもわたしは女だ!」
安徳は素直に認めた。
「みなをあざむいてきたこと、どのように責められてもしかたがない。これまで打ち明ける勇気のなかったわたしを笑ってくれ!」
「安徳さまのせいではない。すべては女であることを隠すよう言いつけたわらわの責任」
時子がかぶせるように進み出た。
「亡き清盛さまの望みをかなえるために偽ったこと。責めるならこの尼を責めよ!」
「わしは気がついておったぞ、安徳さまが女であること!」
声がとんだ。
「おお、わしもじゃ!気がつかいでか!」
「うすうすそうでないかと思っておったわ!」
次々と声があがった。
「気がついておらぬのは成吉ぐらいのものだ」
これが決め言葉になった。
どっとわいた。
「
「なにしろ安徳さまにぞっこんだからな」
みるみる安徳の顔が赤くなる。
「ふ、ふざけるでない!」
安徳はそっぽをむいた。
「とにかく義経と和睦はしない。あれは人の道を踏み外した外道だ!それでよいな!」
「応!」
「知成どの!戻って義経に伝えられよ!我らは安徳さまとともに戦うと!」
時子が眼下の知成に告げると同時に弩弓が放たれ、知成の胸を貫いた。
「あっ、なんということを!」
それを合図のようにして義経の軍が攻撃を開始した。
(成吉になんと詫びればよいのだ……)
安徳の胸はふたがる思いだった。
「適当なところで兵を引かせろ」
義経は命じた。
「これも策ですか」
かたわらのカラスが尋ねた。
「安徳の伝令を見逃したことといいさっぱりわかりませぬ」
「知成の養い子
「吉成と呼ぶのは父親の知成だけでいまだ幼名の成吉とほかの者には呼ばれているようですが」
「その成吉は犬神憑きらしいと知成はいっていたな」
「はい」
「犬神は呪いだ。敵に祟る。だから最初に始末しておく必要がある」
「はあ」
「わからぬか、わずかな手勢で助けに来たところを叩くのだ」
「もし大軍であったなら」
「蹴散らすまでよ。どちらにせよ援軍が来れば城は落ちる」
「なんと!」
そこへ伝令が駆け込んできた。
「ご報告します。弁慶どの討ち死になさいました!」
「それは
凶悪な笑みを浮かべて義経は兵を引き上げさせた。
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