第7話 カラ



 成吉は十騎ほどを従えて丘陵を進んでいた。

成吉と並行して騎走するのはさきの族長エスガイだ。

  

大集会クリルタイの触れはすでに出ておる。あとは各首長しだいじゃ」

「クリルタイ?」

「われわれ遊牧民は昔から、会議によって重要なことを決定するならわしじゃ」

「大君はいないのか?」  

「大君?大汗ハーンのことならおらぬ」

 エスガイは天を仰いだ。

「必要なら天がえらぶじゃろう」

「天が……えらぶ」

 成吉も蒼穹を見上げ、ちぎれ雲を眺めた。


「成吉さん、あんたが勇者だということは、おれたちが認めている」

 浅黒い顔の若者ジャムカが横に並んだ。

「心配しなくとも、大集会ではヤマンから来た部族に協力するさ」

 髭の男ワンカンが肩を叩いて保証する。

「ありがとう、ジャムカ、ワンカン」

 成吉は素直に頭を下げた。


「おい、あれを見ろ!」

 若者の一人が指をさした。

遙かかなたに人の輪ができていた。中心には黒い騎馬武者が認められた。


「死んでいるか?」

 ざわめく人々。

黒馬は傷ついていた。乾いた血と、汗の塩がこびりついている。その背中でテムジンが

たてがみをつかんだまま、こと切れていた。


「ぎゃっ!」

 騎馬に近づいた男が蹄にかけられた。


「あれは息子のテムジンと、愛馬のカラじゃ!」

エスガイたちがが馬を寄せようとするがカラに怯えてうまくいかない。


「とにかく亡骸をおろさねば」

「よせ、カラに蹴り殺されるぞ!」

馬からおりた成吉を、エスガイが制止する。

巨大な前脚の蹄が成吉に襲いかかった。


「むおっ!」

 それをこん棒のような前腕で受け止める。

 すかさず脚をかかえこむ成吉。

 カラは成吉の頭に噛みついた。

「よしよし、気持ちはわかるが、はやくご主人さまを休ませてやれよ」

 血を流しながら、優しい声音で囁いた。

 カラははっとしたように成吉を見る。


「いまだ、おろしてやれ!」

「お、おう」

 ワンカンたちが駆け寄る。

「カラがテムジン以外の者にしたがうとは……」

「カラはもともと野生馬の王。成吉がただ者じゃないとわかったのさ」

エスガイとジャムカがテムジンを下で受け止めた。

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