第2話 落人村


「落ち武者狩りだーっ!」

 悲鳴が山をこだます。


 吊り橋を渡り、山奥の村に攻め入る源氏の兵士たち。

「この村に安徳天皇がおるやもしれぬ!さがせ、さがすのだ!」


 くい止めようとする村人たち。刀で応戦する者もいたが鎧武者相手では分が悪い。

 そんな中に丸太棒を振り回して、暴れまわる十代の少年がいた。

 容貌魁偉といっていい面構えだ。成長に肉が追いついていないノッポだった。


「成吉、吊り橋を落とせ!」

 顔面に傷をおった、村人姿の父親が叫んだ。

 壇の浦の合戦にいた武士、平知成だ。

「まかせろ、オヤジ!」

 成吉と呼ばれた少年は、丸太を構えて突っ込んだ。

「ぎゃっ!」

 将棋倒しのように、武将たちは橋を渡ってくる後続に激突した。


「安徳さまはおれが守る」

 山刀で吊り橋の蔓の束を一本切断した。それだけで橋を落とせる仕組みなのだ。

 悲鳴とともに残党狩りの軍勢は、峡谷へとばらまかれた。


「オヤジ!」

「だ、いじょうぶだ……」

 膝をついた父に駆け寄る成吉。



 峠からの俯瞰する人びと。落人部落から煙がたちのぼる。焼き払われたのだ。


「尼よ、これからどこへいくのじゃ?」

 二位の尼に手を引かれる安徳天皇。長い髪が風に揺れている。

 六才にしては端整な美貌といえた。少女といっても通用する。

「安徳さま、この国は粟散辺土ぞくさんへんどというおぞましいところです。だから波のむこうの楽園にお連れするのですよ」

 安徳天皇はほろほろと涙を流した。


(どうしてこんなに胸がドキドキするんだ……)

 成吉はこの美しい幼帝に目を奪われ、胸の高鳴りにとまどった。


「新羅、高麗、あるいは契丹か……波のむこうにも都のありましょうほどに」

 安徳天皇を慰める二位の尼時子だった。

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