第1話(2)

 既に鑑識斑による鑑定作業は道半ばを過ぎていたが、風見をはじめとした捜査課刑事の到着を待って、遺体はまだ当地に置かれたままであった。青いビニールシートを被せられてはいるが、そこには人間がいるのだろうというシルエットが、くっきりと象られている。周りには地面に何か痕跡が残っていないかを探っている、つなぎ姿の鑑識員数名と、その作業を見つめながら仁王立ちする、モスグリーンのスーツを着た男がいた。

「田山さん。」

 風見がその男に声をかける。呼びかけられたその男は首をぐいと声のした方向に向けると、低い声で「おう」と答えた。

 「嫌な感じだな」、風見が眼前に立つのを見計らい、通常事件捜査一課、略して『通搜一課つうそういっか』の課長、田山幸助たやまこうすけ警部補が口を割った。眼鏡の奥にある瞳はある一点、ブルーシートを捉えている。眉間のしわは深く、ともすれば睨みつけているようにも思えた。

「本当に嫌な感じですね。」

 風見は立膝をつき、床を覆うブルーシートに視線をやると手を合わせて瞼を閉じた。合掌が終わるのを見計らい、すぐ後ろで腕組みをしたまま動かなかった田山が、「全くだ」と相槌を打つ。

「まず間違いなく怨恨の線だろうが、若い娘が可哀想に、なあ。」

 田山はそう言って一つ、大きなため息をついた。組んでいた腕を解き、風見の右肩をポンと叩いて、「まあ、そんなに難しくないヤマだろうけどな」と、半ば勝ち誇ったかのように続けた。

 「怨恨ですか」、手を置かれた肩越しに上司へ視線を送ると、田山はふんと鼻を鳴らして頷いた。

「被害者は見るからに水商売系の女だ。客か、若しくは恋人か何かとのトラブルって感じだろうな」、田山の推論を、ブルーシートに手をかけて中を覗き込みながら聞いていた。その主張はおそらく間違いではないだろうと思う反面、うかがい知れた遺体の状況から、妙な胸騒ぎがするのもまた事実だった。

「殺し方、大分えぐいですね。」

 思わずシートから手を離し、嫌悪感とともに言葉を吐き出す。田山もそこは同感らしく、「異常犯って感じだな」と、こちらも不快感を露にして言った。

「ともかく、このヤマは一課で片づけるぞ。特捜とくそうに取られる前に、な。」

「特捜課、ですか?」、田山の意気込みに思わず聞き返す。

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