座敷わらしと、3Dプリンター②

 私の住まいには、実の両親から買い叩いた、例の3Dプリンターが存在する。

 プリンターは、マンションの一室にある書斎に置いてあり、その部屋に並ぶ棚の一角には、テキストデータを読み取り、形を成した本が並ぶ。


編集長:

「よっこらせーっと」


 拡張現実を用いていない、完全に趣味の部屋。昔は個人宅でもそれなりに見かけただろう〝実在する本棚の並ぶ光景〟だ。今では一部のビブリオマニアですら「自己満足なら、VRでやった方が良い」というのが主流だった。


 現実は、無駄の有効活用をするには、向いてない。


 そんな風に言われる事の多い昨今だが、実在する世界にも良いところはある。


編集長:

「はぁ~、やっぱソファーで横になって、ゴロゴロしながら読む本は最高だわ~」


 どんなに売れない本でも、それなりに楽しく人生を豊かにしてくれる、気がする。あぁ、それと今更だが、私は未婚である。べつに深い意味はない。


編集長:

「ファンタジーとか読むの久々だわ~」


 私が手にするのは、我が社の『福の神』がスコップした――あるいは妖怪、座敷わらしこと『担当たん』がオススメする物語だ。


 彼女の正体がなんであるのか、正確なところは分からない。しかしとにかく、彼女が見つけた作品は後から当たる。もちろん、普段の人工知能が選別した作家志望者も、仮想書籍化すれば確実に売れる。しかし弱点が一つある。


編集長:

「流行りものしか書けない。っていうのは、場合によっては致命的だからねぇ」


 より正確に言うなれば、環境の変化に非常に弱い。私の感覚的に言うなれば、彼らは現代の環境において、一定の成果を上げられる会社員に近い。同一のカラーのみで占めていると、世間の変化に対応できず遅れを取る。


 それでも変化できれば良い方で、実際はどんどん先細りしていく分野に特化するしかない。おかしな話であるが、会社組織というのは、実績を持つ人間だけで頭数をそろえた場合、大体どこかで綻びが生じて崩壊する。人づてに聞いた話だけども。


編集長:

「ま、結局は今も昔も、最後は神頼みってワケよねぇ」


 身もフタもないが、意外と人生そんなもの。あと○歳若ければ、己の力で運命を切り開く! とか、カッコイイ事言っちゃうんだけどなー、残念だなー。かっこ悟り、かっこ閉じ。


編集長:

「さてはて、そういうわけで、うちの神が選んだ今回の物語はどーなんでしょーねー。いかがですか、解説の町田さん?」


町田(編集長):

「はい、そうですね、異世界ファンタジィというのは、さすがにブームが終わり過ぎていて、ちょぅと予想がつきませんね」


編集長:

「つまり、未知数ということですね。ありがとうございました」


 誰も聞いてないのを良い事に、日曜の昼間から、にわか実況者よろしく、そんな悲しい一人実況を始める。は~、結婚したい。




 

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