第11話 幕間2

西大陸第二の都市『ブロウウェル』


西大陸最大の商業地帯の中心部であるこの街は今、炎に包まれていた。


緑にあふれていた町並みは赤黒い炎と煙に包まれ、大地は割れ、川は枯れ、人々は次々に殺されていった。


それを、丘の上から眺めている者が居た。

まるで鋼のような黒い筋肉に全身を包まれ、頭部には巨大な角が二本、手と脚には剣のように鋭い爪が生えている。魔族の中でも一際邪悪で強力な存在。

人はそれを、『悪魔』と呼んだ。


「しっかし、退屈な仕事だぜ。」


悪魔は、つまらなさそうに腕を組んでその光景を眺めていた。


「クソ雑魚どもをぶっ殺して街を焼き払うだけ。面白くもなんともねェ。」


「仕事とは、面白くないものですよ。」


その傍らで、巨大な弓を携えた魔族の女は言う。

2つの曲がった角を避け、薄桃色を帯びた銀髪をかき上げながら、彼女は隣の巨体を見ずに続けた。


「やる気が無いのなら引っ込んでいてください。偉そうに立っていられると正直邪魔です。」


「オメェ、上司に向かってなかなかおもしれェ事を言うじゃねェか?イイねェ、優秀で何よりだ。オメェを副官にして良かったぜェ。面倒くせぇ仕事は全部押し付けられるしなァ。」


「アナタが仕事をしているところなんて見たことありませんが?」


「良かったじゃねェか?オメェの好きな汚ねェ仕事を与えてやってるんだからよ。」


「汚い仕事、ですか。魔族の言葉とは思えませんね。」


喋りながらも、彼女は炎に包まれる街へ魔力の矢を放ち続けている。かろうじて逃れた者たちを、確実に刈り尽くすために。


「殲滅戦、嫌いなんですか?私は好きです、楽なので。」


「雑魚共を一方的に殺して何がおもしれェんだ?オメェは虫をプチプチ潰すのが趣味なのかよ?」


「知りませんでしたか?」


「別に知りたかなかったぜ。」


「そういえば、先程誰と連絡をしていたのですか?」


「あァ?テティスの奴から通信が来てよォ。」


「テティスルテュカ様ですか。確か今、中央大陸にいらっしゃるはずですね。」


の後釜でな。ったく、あの野郎に一発食らわした野郎が向こうに居るってェのに、何で俺様はこんなつまんねぇ掃除やらされてんだよ。テティスの奴もなんか楽しそうだったしよ、思わずムカついて通信機粉にしちまった。後で新しいの用意しとけよな。」


「暇なら御自分でどうぞ。私は射撃で忙しいので。」


「ケッ、優秀なこった。」


巨体の悪魔は、首をゴキリと慣らして、後方の備品置き場へと歩いて行く。

それに目もくれず、彼女は生き残りを殺し続けた。


「逃げて隠れた人間を、探して、撃って、殺す。探して、撃って、殺す。一人ずつ、一人残らず、殲滅する。この楽しさがわからないとは。」


ひたすらに、殺し続ける。


「中央大陸の掃除が困難になれば、すぐさま南大陸へ移って仕事を再開する。が私の上司であれば気が合う気がするのですが。」


彼女が思い浮かべるのは、黒の鎧を纏った騎士だ。まるで機械のように命を刈り取り続ける姿はどこか自分に似ていると感じていた。


「まあでも、それでは私に仕事が回ってきそうもありませんね。」


ふぅ、と小さく息を吐き。彼女は巨大な弓に展開する魔力矢の数を増やしていく。


「『射殺す双頭の魔犬ケルヴェルク・ハウンド』展開、自動射撃開始。あまり長引かせると良くはありませんね。上司に堪え性がないと部下は大変です。」


放たれた赤い魔弾は、燃え盛る街に雨のように降り注いだ。

その一つ一つが、全て命を潰していく。

プチプチと、潰していく。



この日ブロウウェルは、人口のほぼ全てを失い、街としての機能を完全に停止した。

西大陸の空は、赤と黒に侵食されつつあった。



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