再会
そうして床について、数時間後には無事に朝を迎えた。
「うーん…まだ眠い…。」
伸びをしながら呟くが、常坂や雫さんは既に回診を行っているのだから頭が下がる。
雫さんは、続ける意向を示してから希望だった小児科の担当になり、毎日張り切っている。
子ども達を楽しませようと一生懸命な姿は見ていて凄く癒されるし、素敵だと思う。
近くにいると俺も絡まれるのが難点だが。
いくら好きな人が好きなものでも苦手なものは苦手だ。
自分の子どもだったら平気なのかな…と考えかけて頭を振った。
雫さんが俺の言動を割となんでも受け入れてくれるから勘違いしがちなんだ。
自分から進んで自制しないとそのうちしっぺ返しがきそうで怖い。
なんて堂々巡りな考え事をしていると、今朝は常坂じゃない医師が回診に現れた。
「常坂くんは今来客中でね。」
と、俺のポカン顔の理由を読んで先回りして答えてくれる医師。
「こんな朝早くからですか。」
病院の来客って朝の回診終わった頃からじゃないのか。
手元のバインダーに何か書き加えながら医師が説明してくれた。
「今日転院してきた患者さんの担当が、以前ここに勤めていた人でね。」
「え!まさか元カノ!?」
俺がその話題に食いつくと、
「なんだ、常坂のやつ喋ったのか。」
と、意外そうに目を見開く医師。
「だいぶこたえてたみたいで、今まで彼女の話題には皆触れないようにしてきたんだよ。」
「別れたのって最近だったんですか。」
「1年半くらい前かな。」
いや、常坂のやつ何でもなさげに言ってたけど、めちゃくちゃ引きずってるじゃん。
というのは頭の中だけに留める。
「君には心を許したって事なのかな。」
「その言い方気持ち悪いんでやめてもらっていいですか。」
身震いしながら即答すると、酷いな。と笑われた。
物理的に酷い事ばかりしているのは常坂の方なので、お互い様だろう。
「まぁそんなわけで、患者さんの搬送ついでに少し話をしているんだ。」
それこそ、昨日の「上手くいったらいいんだけどねぇ」な状態だな。と青い空を見た瞬間、パーン!と乾いた音がして、一緒にいた医師と共に扉の向こうを見に行く。
「最っ低…っ!!」
泣きそうな目でひっぱたいたポーズのまま常坂を睨みつける女性。
多分彼女が元カノだ。
この病院には諸事情で雫さん以外の女性看護師がいないのに、ナース服を着ているのだから間違いない。
「アイツ、また何やったんだ…。」
と、隣で同じように顔をのぞかせていた年配医師は盛大な溜息をついた。
「また」なのか。
どうやら常坂は元カノを過去にも怒らせてきていたようだ。
俺は多分今まで雫さんを怒らせたりして無いよな…?と反面教師にして自問した。
…うん、多分してないし、これからも怒らせるような事はしないと思う。
「そんな人だとは思わなかった…!」
感情が高ぶり過ぎたのか、叩いた方の元カノが涙を流し始めて、周囲がざわつく。
「まずいな…、」と呟いて年配医師が事態の収拾に向かったのを見送って、
「常坂、せっかくのチャンスなのに何やってんだよ…。」
と、自分で思っていたよりもガッカリした気持ちで一人ごちた。
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