第2話 常坂
入院初日のあれから、今日でやっと1週間ってとこか。
夜になると戦闘があるって緊張感が一日中付きまとうこの生活は、時間がいやに長く感じて困る。
「今日は早かったねぇ!」
今しがた仕留めて消え去る最中の、車椅子で爆走してくる化け物の光の粒子の奥から常坂が声をかけてきて、俺は嫌な顔をする。
「全然早くねーよ!箱入って数秒で城崎さんが嫌な思いしてんだから!
ちょっとでも早くしたくてこっちは必死なんだよ!
あんたにはわかんないだろうけど!」
「それに関しては痛い程わかるよ。僕の彼女も箱に入った事があるから。」
「え?」
考えた事もなかった言葉に、間髪入れずに訊き返していた。
いつもの軽口をいうようなテンションでさらっと言ったから、冗談かと一瞬疑ったほどだ。
「最初、僕は中学から付き合っていた彼女と一緒にここに着任したんだ。」
嘘のなさそうな常坂の表情に言葉を無くす。
「同じ病院がいいね、なんて言ってさ。
俺がここの話を蹴っていれば、もしかしたら結婚までいってたかも。」
「今は…、」
言葉に詰まりながら質問すると、常坂は首を横に振った。
「箱に入るのが耐えられなくなって、記憶を消して別れたよ。
今は彼女の家に近い都内の病院に勤務してる。」
きっと、常坂も今の自分のように必死になって戦ったことだろう。
「俺は中でどんな事されてても気にしないって言ったんだけど、
精神的にキツかったんじゃないかな…。」
全ては想像でしかないけど。と常坂が呟いて、そこから俺達は雫さんの出てきているはずの箱へ黙々と足を運んだ。
かける言葉が見つからない。中学からって何年付き合ってきてたんだよ…。
一目惚れの俺よりよっぽどダメージでかそうじゃん。
「その人は、結婚したんですか?」
「…いや、まだ。」
「じゃあまだチャンスあるじゃないですか。
未練あるんだったら連絡してみたらいいと思う。
俺も退院したらもっかい告白するつもりだし。」
精一杯の慰めを述べる俺に、常坂は憐れむような視線を向けた。
「上手くいったらいいんだけどねぇ…。」
「なんでだよ!お前も俺を応援しろよ!!」
噛みつく俺に走り寄ってくる足音で雫さんの無事を確認する。
「澤口さん!怪我はないですか!?」
「はい、今回は大丈夫です。」
前日の戦闘では肘をしたたか打ち付けて、青あざを作っていたから心配してくれているらしい。
普通にあざ程度で済んでいることが奇跡だけど。
その点に関しては常坂がいつもフォローしてくれているおかげなので戦闘に関しては最高のバディだと俺自身思ってはいる。
「僕の心配は?」
「常坂先生はたいてい罠仕掛けてるだけじゃないですか。」
雫さんの返事はそっけない。
一応俺を抱えて攻撃避けてくれたり、初日に壁にぶん投げられた時も下敷きになって庇ってくれたりと体張ってる部分もあるから、あんまりすげ無く邪険な扱いを受けているのを見ると良心が痛むので軽く反論しておく。
「一応常坂も作戦考えてくれたり補助してくれてるけどね。
常坂のフォローなしじゃ俺もっと怪我してるだろうし。」
うんうんと大きくかぶりを振る常坂の様子に、言わなきゃ良かったと内心臍を噛む。
やっぱ性格的には全然合わねぇわ。
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