患者だけ
「困ったな、医者は止めを刺せないんだ。」
化け物の様子を見ながら器用に手当てをして、常坂が言った。
「医者が止めを刺すと何故か奴ら分裂するんだよ。」
アメーバか!と言いたくなるが痛みでそれどころじゃない。
でも、本当に怨念説が有力になる話だ。
医者に殺された患者がまた殺されたなら、それこそ二倍三倍と恨みが膨らむ事だろう。奴らの場合、物理的に。そして同じように病気と闘う患者に殺されるなら、自分自身を投影して死を受け入れられるのかもしれない。
そういえば結界で守られているからだと思っていたが、あの怪物は一度も病室を襲おうとはしなかった。
日付が変わらないっていうのも、彼らには明日が来ないから?
もし本当に推測通りなら。と思い至って、気持ち悪いだけだった化け物がかわいそうに見えてきた。
恨みであんな醜い姿になってしまったというのなら、早く終わらせてやるべきなんじゃないか。
体に食い込むトラバサミが増えるにつれて化け物の悲鳴のボリュームが上がっていく。
「くそっ…!貸し一つだからな!」
吐き出して、なんとか指先が動くことを確認する。
「あの斧、腕に巻き付けて固定しろ。」
不思議と重くない斧だとはいえ、掴めるほど力が入らない今の手では柄を持って振り回すなんて事は不可能だ。
「え、それじゃ敵に近すぎる。」
「分かってるよ!つか、お前のせいなんだから何言ってる、みたいな顔すんじゃねぇ!」
躊躇する様子を見せながらも、常坂も他に方法がないとわかっているのだろう、斧を骨折の副木固定の要領で固めていく。
自分でも、思っていた以上に武器と手の距離が無くて不安になるが、やむを得ない。と諦めか決意かわからない感情で迷う心を切り捨てる。
この時間にも雫さんは、今想像したら戦闘できなくなるような何かをされているんだから、と真面目な顔で鼻血を垂らしながら敵に向き直る。
「援護頼んだからな!」
「勿論だ!任せたまえ!」
信用ならん!と頭の端で叫ぶ声があがるが、今は人間性じゃなく戦闘経験とその実力を信用するしかない。
化け物は完全にこちらを向いた状態で、トラバサミだらけになった腕を自ら切り捨て、新しい腕を生やそうとしていた。
内科待合からは内科の廊下と、真ん中のエスカレーターに向かう通路がある。内科廊下側に化け物がいるから、エスカレーター側の通路から回って行けば奴の後ろへ出る。俺は手で常坂に合図して、常坂も首を縦に振った。
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