浮かない青
・・・
「――今日はちゃんと動きやすい服着てるんだね」
「あんまり汚すと取れなくなるし、あと二年使うのにここで壊れて着れなくなったら勿体ないだろ」
「確かに」
流石に八時も過ぎた頃となれば、部活動で残っている生徒もおらず学校全体がしんと静まり返っている。閑静な住宅街の中にある城谷第二高等学校の門は今や閉じられ、物々しい雰囲気を放っている。歴史のある古い校舎も昼間は威厳があるものだが、夜に見ればおどろおどろさを助長するものにしか見えなかった。高槻は門近くの塀に背をつけ、スマートフォンをいじっていたのですぐに見つかった。
「吉川はどこに行こうとしてたの?」
「まだ決めてない。1区に行くのも気が引けるし、今日は違う区に行こうとしてた」
「なるほどね」
高槻は深いため息をつきながら、背を塀から離す。そしておもむろにスマートフォンの画面を見せた。どうやらニュースサイトを開いていたようだ。一番上には”昨夜から行方不明、目撃情報求む”の文字が躍り、ぼやけた写真が二名分載せられている。誰であるかは判別がつかないが、高槻が見せてきたと言うことは俺に関係がある人なのだろう。首を傾げながら見ていると、彼女がヒントとも言える言葉を紡いだ。
「昨日、地下から出た時に」
「……まさか」
昨夜、高槻と地下から出た際に二人の男と行き違いにすれ違った。細身の男と筋肉質の男だ。俺はその画面をじっと見つめる。確かに遠目から見れば彼らのようにも見えた。
「そう、そのまさか」
あの時、高槻がいなかったら俺もそうなっていた。そう思うとぞっとした。大の男が二人いても敵わなかったのだ、まして能力が不安定な俺が太刀打ちできたはずがない。偶然にしてはあまりにも出来すぎていた。
青ざめた俺を尻目に、高槻はスマートフォンをしまう。とりあえず駅に行こう、と先導する。
「まあ、あれと関係があるかはよく分からないけど、こういう失踪事件は最近わりと多いよ。でも一回あると当分は無くなる。私と吉川が逃げられたのも運が良かったから、たくさんの人と一緒に行動すれば生存率が上がる。……本当なら地下に行かないのが一番いいんだけどね」
「……高槻は? いつも一人で行ってるようだけど」
俺にそう諭すのならば彼女も同じだろう。あの夜彼女は一人で行動をしているようだった。いくら魔術師としての経験が高いとしても、一人で地下へ向かうのは褒められたものではないだろう。
「私は、違うから。たぶんみんなと合わない」
「違うって、何が」
閑静な住宅街を抜けて、飲食店やファッション店が軒を連ねる通りへと出る。道幅が広くなり、歩道が出来る。駅へと近づくにつれて制服を着た人が多くなっていく。
高槻が言いにくそうに視線を泳がせたのが横目から見えた。
「……目的が」
改札を通ると、ホームにはスーツ姿のサラリーマンと学生が混在するように居た。
その違う、は他の人と違うと言う意味なのか。地下に赴く理由が、人工生命体をせん滅するためではないと言うならいったい何のために出向いているのか。それを尋ねようと口を開くが、違和感で口をつぐんだ。
「ちょっと待った、これって今どこの区に行こうとして……」
「1区」
「昨日あんなこともあったし、そこはあんまり行かない方が良いんじゃないの」
「昨日あったしもう当分ないよ。それにここ近辺では一番治安いいし、ああもう電車来る。乗ろう」
「あ、ああ」
ぎゅうぎゅう詰めの車両の中では流石にそういった話をするわけにはいかない。互いに口を噤む。人の立ち位置の入れ替えで奥に行ったり押し込まれたりなんだりはしたが、目的の駅で何とか降りることができた。
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