3個目 生活すること

脱出魔法エスケープを使って森を抜け、『マルディア』に帰ってきた。すっかり夜になっていた。

難しいダンジョンでもなかったのだが、やはり魔物と直接対立するのは少し勇気がいる。巨人系の魔物とはどう戦えばいいんだ。

「うぅ・・」

そしてユウヤは気分が悪そうだった。

「どうした?なんか顔色悪いけど。」

「ああ、すまない。ちょっと転移酔いしただけ。」

なるほどつまり車酔いみたいなものか。

「もう夜だし、宿まで耐えろよ?」


宿に着き、部屋をとる。ここは現実とあまり変わらなかった。

「あーつかれた。そういやなんでこんなことになったんだろうな?」

食事をして、ベッドにダイビングしたユウヤが話してきた。

「この世界に来たことか?」

ユウヤはうんと頷いた。

「不具合のお知らせどころかお知らせボタンがないんだよな。」

告知ボタンがない?自分も調べてみたら、いつも新しい告知で光っていた告知のボタンがなくなっていた。

「ボタンはないし、ログアウトもできない。本当にこの『ナイトクロス』に閉じ込められたのか?」

そうなのだろうか。いやそうなんだ。

ログインしていたプレイヤーは全てこの世界に閉じ込められたはず。

「でも、この世界からは出たくはないな。」

「えっ」

えっ、ってなんだよ。

「マジかよお前。このままじゃ他のゲームできねーじゃん。」

確かに困ることもある。もしかしたら飽きてしまうかもしれないし、ログイ・・・

「連続ログインボーナス消えるな。」

「あああ!?」

このままじゃ石回収ができない・・・

「まぁ一ヶ月は無理だろうな。」

「無課金勢涙目だぞ。」

自分だけど。

「てか、飯は普通に食べれたな。」

確かにそう思った。異世界なんだからどんなゲテモノが出るかと思ったら、シンプルな食事だった。

「モンスターの材料で作った物かと聞いたけど、普通の食べ物って言ってた。」

いや失礼だろそれ。

「てか寝たいんだが電気消していいか?」

色々あって疲れているし、何より眠い。

「え?ああ、いいよ。」

「んじゃ、おやすみー。」

部屋の電気を消し、月の明かりだけになった。

かなり疲れてたのかすぐに眠りにおちた。


異世界生活2日目。今日も晴天なり。

「・・・眠い」

「おいおいもう9時だぞ?いい加減目を覚ませ」

ユウヤが言う通り、表示されている時間は朝9時34分。

「毎日が休みみたいなもんじゃん・・・くそねみ・・・」

「はよ起きろ。これから家買うんだから。」

「うん?『マイハウス』?」

このゲームは『マイハウス』っていう自分の家を買うことができ、住むことができる。

「金足りるかわかんないけど、このまま宿暮らしはまずいからな。」

確かにこのまま宿暮らしはきついものがある。しょうがなく自分は着替えるため、服を脱ごうとするが・・・

「ばっ・・・お前今女だって忘れたのかよ!?」

あ、そうだった。いつもの朝なのでうっかりしていた。

「んじゃ、先行ってて。準備できたら行くから。」

ユウヤは早々に部屋から退散した。

一人になった部屋の中で、

「・・・変わらないよな・・。」

鏡に写っている女になった身体を見ながらそう呟いた。


装備を整えて、街にでた。昨日の騒動はもう収まり、いまは動く者、座り込む者でわけられている。

「ああはなりたくないな・・・」

座り込む者を見ながら話す。

「だから家買うだろ?」

「家ってどこで買うか知っているのか?」

「うーん・・・ギルド行ってみるか」

知らねぇのかよ。


「こんなにデカかったんだ・・・」

「東京ドームはあるんじゃないか?」

いやないだろう。でもデカイ。

「早速入ろうぜ?入ったの冒険者登録以来だし!」

自分もそうだから少しワクワクしてた。

走っていくユウヤを歩いて追いかけた。

ギルド内はキラキラしていて何も変わっていなかった。

「すいません。家を買いたいのですが。」

謎のイケボ?で受付のNPCに聞いていた。

「はい。『マイハウス』の用件ですね?」

NPCの見事なスルースキルが炸裂した。

「『マイハウス』には種類があり、値段が違います。」

そういってリストを見せてくれた。

・・・・一番安いので100万。

「やべぇ足りねぇ・・・」

そりぁそうだ家だもん。ユウヤはチラッと自分を見た。こいつ自分に買わせようとしてるな・・・

「わかったよ。買うよ。」

マイハウスないし、丁度いい。ただ自分の家とこだわりたい。場所とか。

「じゃあ・・・210万の『星滝ほしたきの家』でお願いします。」

ちょっと大きな出費だけどまぁいいか。

「ありがとうございます。こちらが『マイハウス』の鍵です。」

受付NPCから鍵を貰い、玄関口に向かう。

「ほら行くぞ。」

「お、おう。」


『星滝の家』。西口と南口ゲートの間は山になっていて、マルディアの南西はちょっとした山になっている。近くに滝があり、湖がある。その近くに自分の『マイハウス』を建てた。

「すげー!滝に湖じゃん。」

「敷地結構広いな。っていっても半分が湖か。」

ユウヤが湖で遊んでる中自分は家の中を確認していた。

「空き部屋が6個もあるな・・・」

自分の部屋、居間、作業部屋とかで埋めても6個は空き部屋ができた。

「あれ?俺の部屋は?」

「いや私の家だぞここ。」

「いーじゃん別に友達だろ。」

図々しいなこいつ。

「しょうがないな。じゃ毎月五千は払って貰うぞ?」

「うっ・・・まぁ居候みたいなもんだからな。わかったよ。」

とりあえず一部屋は埋まった。

「さすがは建築関係の大学行ってるだけあって、家の構図確認も冷静だな。」

褒めてるのか、馬鹿にしてるかよくわからないことを言っている。

「・・・まぁこんなもんか?」

簡単な部屋割りを終え、次の確認することは・・

「そういや料理ってどうすりゃいい?そんなスキルないだろ?」

このゲームは料理アイテムはないが、街には果物や野菜やら売っていたはず。

「スキル関係なく、誰でも作れるんじゃないかな。」

「よし。料理は任せたぞ。」

おい。ちょっと待て。

「なぜ私が作らなくちゃならんのだ。」

「料理を作るのは女の子が常識だろ?」

「ああ?」

確かに今は女だが、関係ないだろう?

ムカつくから思いっ切り睨んでやる。

「お前女の子なのに目付き悪いよ?スマイル、スマイル!」

ムカつく。笑顔がさらにムカつく。

こいつの顔面に最強魔法をぶち込もうか?

イライラしながら、家を出ようとする。

「買い出し行くぞ。一緒に行くか?」

「おお。行くぞ。」

よし。途中にある川に突き落としてやろう。

新しい家を買って、異世界生活の第一歩になるといいけど。

そう思いながらサキとユウヤは中心街に戻るのだった。

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