第七怪奇談  廃墟の鬼

 夜も深まった道を歩く三人。

 いや、二人と一匹か?。


 街灯がいとうに照らされる三つの影は、何やら話をしている。


「おい、ふざけんな。さっき僕の足踏んだだろ?許してやるから、謝れよ」

「なぜ、踏んでいないのに謝らなければいけないのじゃ?いささか、不愉快じゃのう…」

「いいか、暗いからって見えなかったと思うなよ。僕の足の甲には痛みと言う証拠があるんだからな?」

「うえぇーん、姫華ぁいじめてくるのじゃぁ」

 ウソ泣きと言う、高等テクニックで姫華さんに媚びる鬼。

 すると、姫香さんは、まるで泣きついた幼女をなだめるように抱き。

「まぁ、桜子ちゃんもそう言っているし許してあげよ。ね?」

 姫華さんが天使の包容を見せる、ですけどね?今すぐにその首を曲げて鬼を見てくださいよ。

 こっちみて、くそイラつく顔してますよ。


 鬼は、幼女らしからぬ人を見下す目をして、口角を上げている。

 くそイラつく選手権があれば優勝間違いなしだ。


 てか、目的。

 危うく、目的を忘れるとこだった。

 僕らが行くべき場所を、姫華さんに確認する。


「その、鬼が出るって廃墟。だいたい近くになりましたかね?」

「うん、てかそこだね」

 姫華さんが人さし指を立てて、僕らの目的地を教える。

 いつの間にやら、肩車されている鬼はまだあの顔をしている。

 もういいって、ホントに。

「あれ?てか、姫華さん力もあるんですね。鬼を持てるなんて」

「うーん、あんまり力には自信がないのだけれど桜子ちゃんは、肩車できたよ」

「ワシは、己の存在を霊気れいきで変えれるからのう。ワシは、今とてつもなくこの世界に無いに等しくしておる」

「そいつは、まぁなんでさ?」

「成り行きじゃ」

 

 この鬼、自由過ぎるだろう。

 存在を無いに等しくするとか、自殺行為じゃねぇか。

 まぁ、僕も昔はあったなぁ。

 もうどうしよも無くて、死にたいと思った時が。

 あの時は、死は逃げだとか言われたっけ…。

 その点、こいつは出たり消えたり。

 いいなぁ、その力僕にもくれよ。

 そしたら、どんなに楽か…。


 僕は、視線を前方に向けて足を進める。


「おい、たわけが。ワシの力が欲しい等と考えておる訳なかろうな?。何も便利ではないぞ。」

 僕の体がビクッとする。

 なんだこいつ、心臓に悪いだろ!。

「なんだそれ、力を持つ者特有の悩みかよ。そんなのは、持ってないものから言わせれば、嫌味ってもんだよ」

「おぬしは、何もわかっとらんようじゃのう。人間がどれだけ持っているのか、ワシにとっては、おぬしも持ちすぎなくらいじゃ」

「なんでだよ、何もないじゃないか」

「貴様は生まれ、すくすくと育ち、親に育てられた、これのどこに不服があるのじゃ?」

「おいおい、鬼が道徳を教えてくれるとは思わなかったぜ」

「道徳などと言うものでは無い。あくまで、ワシの意見じゃ」

「へぇ、そいつは勉強になったぜ」

「一つ聴いていいかのう?」

「なんだよ?」

「姫華さらわれたぞ」

「え!?」

 僕が姫華さんがいた位置に視線を戻すと、憎たらしい鬼のみがいた。

 そこに、人の影はない。


 くそ!、肝心な時に僕ってやつは!。

 てか、この鬼は何やってんだよ!、お飾りかよ!?。

 人というか、鬼ににあたっていてもしょうがない、姫華さんを救わなくては!。


「おい!、姫華さんを助けに行くぞ!」

「その必要はないと思うのじゃが…」

「お前、何言ってんだよ!?」

 

 理解に苦しむ。

 さらわれたんだぞ!、なのに助けなくていいって!?。

 やっぱり、こいつも鬼の端くれだったか…!。


「くそ、もういいよ!、僕一人でもなんとかするよ!」


 こうなりゃ、気合でどうにかするしか…。

 と、僕が考えていると。



 ドシンッ!と、大地が揺れる。

 それと同時に、僕に向かって霊気を放つ幽世の者が一匹、姿を現す。


「おいでなすったようじゃのう」


 鬼は、わくわくしていた。

 鬼が二匹と僕が一人。


 廃墟の鬼と思われる方は、全長2メートルぐらいだ。

 街灯に映し出されたその鬼は、角は二本、いかつい筋肉質の体をしている。

 あと、口がでかい。

 顔面の半分は口と言っても過言ではない。

 鬼は、その大きな口を開いて言う。


「オマエ、オイシソウダナ…」


 もはや、僕を肉としか見ていない。

 人間が牛や豚を食べるように。

 鬼は、人を喰う。

 だけれども。


「おい、早まるなよ。悪いが鬼が人を喰うと滅されるぞ、陰陽師にな」


 この世界の均衡を保つため、と言うかお互いに己の世界を守るため出した条件がある。

 安倍晴明あべのせいめいの懲戒書だ。

 こいつに、いわゆる僕らで言うところの法がある。

 これに準じて、いわゆる罰を与えるのだが人を喰ったらそりゃもうダメだろ。

 

「オマエ…クウ!!」


 って、おおい!来るのかよ!?。

 こっち、鬼(幼女)しかいねぇぞ!。

 いや、まてまてあいつも一応鬼だ。

 きっと、すげぇ力を持っているに違いな…。


 その鬼に目をやると、酒を呑んでいた。

 こいつ最後の晩酌ばんしゃくしてるよ。


「つっかえねぇえええええええ!」


 僕は、全速力で逃げる。

 この瞬間だけ、風になれ僕の足!

 しかし、ガシッと、僕の衣服をつかむ音。

 おそるおそる、後ろを向く。


「オマエクウ」


 ダメだこれ。

 てっ、あきらめらんないだろうがよ!。

 こちとら、姫華さん救うんだよ!。

 僕は、僕の衣服にある手をどうにかはずそうとする。

 びくともしねぇじゃねぇかよ!。


「ハハハ…オマエオモシロイ。クウ、カナラズクウ」


 僕の抵抗は、どうやら食欲そそるスパイスになったらしい。

 もうダメだ。

 あきらめかけたその時。


鴉羽織からすばおりやれ」

御意ぎょい

 と、懐かしい声と掛け声が聞こえる。

「ざまぁないぜ。式神のいない天才陰陽師なんてそんなもんだよなぁ、悠」

 

 次の瞬間、鬼は鴉羽織によってあっけなく滅される。


経也きょうや!?なんだって、ここに?」

「そりゃ、懲戒書に基づいて罰を与えに来た。それと、てめぇに言伝ことづてを頼まれた。てか、一般人巻き込むなよ、陰陽師だろうが」

 脇に抱えた、姫華さんを地面に丁寧に寝させる。


 こういうとこは、やさしいなこいつ…。

 え?姫華さん?。


「なんだって、お前が姫華さんさらってんだよ」

「何言ってんだよ、保護だろうが保護。あのまま、だったらあぶねぇだろうが」

 まぁ、気絶しちまったが、と続ける経也。

 僕は、疑問がとまらない。

「え?だっててっきり、姫華さんさらわれたかと」

「おいおい、やめてくれよ。別に趣味じゃないぜぇこの女」

 僕ら二人の会話に、酔いどれが一匹参加する。

「だから、言ったろう?大丈夫じゃとな」

「なんだこの鬼、ガキじゃねぇか」 

餓鬼がきじゃと?そこまで、欲深くないわい!」

「あぁ、すまんすまん。ニュアンスと言うか、何というか」


 餓鬼と言うのは、餓鬼道に堕ちた亡者の事を指すから勘違いされたっぽいな。


「経也、ガキだと伝わりづらいから、幼女にしよう」

「その提案は却下だ。それと、お前はその頭をどうにかしろ。なんだよ、幼女って意味わかんねぇよ」

「いや、意味はわかるだろうさ。誰が聴いても、誰が見ても」

「ワシは、ちゃんと名前で呼んでほしいのじゃが…」

 鬼の話を遮るように経也は、口を開く。

「親父が死んだ、家に帰ってこい。言伝だ。ちゃあぁんと覚えとけよ」


 じゃあな、と経也は鴉羽織につかまり暗闇の空に消えた。


 は?親父が死んだ?ウソだろ?。

 僕の脳に混乱が訪れる。


「もう、今日は取りあえず帰るかのう…」

 鬼の一言で、僕の脳は取りあえず目的を作る。

 気絶した、姫華さんを抱えて僕らはアパートを目指す。


 僕らは、廃墟前の道路を後にした。


 

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