第三怪奇談  桜井 悠は恋をする


 

「えーと…」

 財布、ケータイ、鍵。

 外出の時の三種の神器を玄関にて確認する。

「それと、ワシじゃ」

 と言って、僕の背中に抱き着いてくる幼女。

 もとい、鬼。

「だめだよ、人に見られるじゃないか」

 ちょっと大きいお兄さんが幼女を連れていくのは、一般の年の差兄弟として誤魔化ごまかせれるだろう。

 ここで、幼女に鬼を代入してみよう。

 ちょっと大きいお兄さんが鬼を連れていくのは、一般の年の差兄弟として誤魔化せれるだろう。

 ほれ見ろ、頭が悪そうな光景だ。

 いや、頭が悪そうな文の方が的確か。

「お前もさぁ…」

 と、鬼の方を見る。

 そこには、幼女がいた。

 見間違いではない。

 鬼ではない。

 幼女。

 どんなからくりを使ったのかはわからない。

 僕がそんなことを思っていると。

「これで、ワシも行ってよかろう?」

 幼女は、朱色の着物を身にまといながら上目使いで僕を見る。

 うぅ…。かわいい。

 断る理由もなくなった僕は、

「しょうがないが、ほっつきまわるなよ?お兄ちゃんの目の届く範囲にいるんだぞ?」

 と、鬼の提案を承諾する。

「おい、調子に乗る出ないぞ人間」 

 先ほどの上目使いとは程遠い、目で殺されそうなまでににらまれる。

 僕の上から目線が気に入らないらしい。

 だったら。

「だったら、留守番だな」

 当たり前だ、僕の言う事が聞けないなら迷惑だ。

 僕にも人さまにも。

「ワシはお兄ちゃんの事が大好きなのじゃ!」

 そう言ってこの幼女は、立ち位置を僕の背後から右に動き。

 僕の右手をつかむ。

 というか、抱きかかえる。僕の右手を。

 背中ではあまり意識させなかった、胸の感覚が僕の右手を通して伝わってくる。 

 まずい、このままでは明日から牢屋に入れられる!

 明日の昼飯は、かつ丼かな?

 と、考えながらドアを開けると。

 そこに、タイミングよく隣人と思われる女の子がいた。

 目が合い、先に声をかけられる。

「もしかして、お隣に引っ越してきた方ですか?」

 さっきも、幼女(鬼)の上目使いでやられたばっかりなのに、ここにきてまた僕は心臓の鼓動を速める。



 髪は肩ぐらい。

 顔は小さく。

 背は150後半。

 うさぎのかわいらしいヘアピンをしている。

 あと、かわいい。

 あ、胸はどうだろう?

 Aかな?

 ウエスト細そうだな…。

 なんて思っていると。

「あの…、私の体に何かついていますか?」

 あまりにもジロジロし過ぎたか、彼女は不安そうに僕を見つめる。

 うひひ、その顔もまた…。

 と、思っていると。

 ダン!っと、僕の右に立っている幼女(鬼)が僕のスニーカーにかかとおとしをする。

 もちろん、完璧にスニーカーをとらえた踵おとしの衝撃は、スニーカー内部も容赦ようしゃなく貫通したのち地面(玄関)に送られる。

 速すぎて彼女は気づいていない。

 僕は紳士さ!。

 ハレンチな考えなんて持つわけないよ?

 いやはや、本当にこれっぽっちも。

 右足の激痛を我慢しながら、涙目で言う。

「どうも、お隣に引っ越してきた桜井さくらい ゆうと申します。こちらは…」

 と、幼女(鬼)を見ながらふと思う。

 こいつの名前、知らないな。

 僕が何と呼べば困っていると。

「妹の桜子さくらこじゃ、よろしく頼むぞ」

 と自己紹介を済ませる、幼女(鬼)。

 お前、桜子っていうのか…。

 僕がそう思っていると。

 かわいい!っと言って、彼女はしゃがみ桜子の頭を撫でる。

 撫で終えてその手を、休め立ち上がると。

「私は、龍宮峰りゅうぐうみね姫華ひめか。よろしくね!」

 元気よくあいさつされる。

 笑顔で。

 じゃあ、っと手を振りながら階段を降りていく姫華に僕も。

 じゃあ、っと手を振り返す。


 持ってかれた。

 

 その笑顔に。


 僕の心を。

 



 

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