第一章 田舎から東京へ

第一怪奇談  東京に出てきた少年

 一


ここの、空は狭い。

 これは、僕の第一印象だ。田舎からやってきた僕は、こんなにビルが立ち並ぶ大都市を前にそう感じた。

 ここは、東京。僕の新しい人生の始まりだ。


 二


「東京に行きたい」

 僕からだ、こんな田舎抜け出してやるって思ったのは。高校生という過程を終了し、就職か、それとも進学かという瀬戸際で僕は東京に行きたいといった。

 それは、就職でも、進学でもない。ただ、東京に行きたかった。家を継ぐのだけは嫌だった。

「ゆうくんは、それでいいの?」

 当たり前だ

「うん」

「お父さんとも、話をしましょう」

 嫌だった。僕は、父が嫌いだ。昔から、僕には素質があるといって家を継ぐ話ばかりだった。僕が反抗するとすぐに、暴力を振り非力な僕は、ただ耐えるばかりだった。声や、物音だけで体がびくっと動くようになった。怖いからだ。でも…

「言う」

 変わるんだ、これから。だからその一歩なんだ、これは。

「わかった、好きなようにしろ」

 びっくりした、反対するかと思ったからだ。それと嬉しかった。でも、僕は目も見れずたたみの縫い目と会話していた。

「お父さんが、そういうなら…」

 母さんも、同意のようだ。

「この年だ、いろんな所を見て回ればいい」

 ただ、とこちらに近寄る

「二度と、帰ってくるな」

「お父さん!」

 お母さんの、怒鳴り声を背に僕は、嬉しがっていた僕を玄関に置いてきた。荷物は軽いほうが楽だ。

 新幹線にのるため、駅に着くとそこに僕を見送るためか一人の同世代の男がいた。

「家継がねぇのかよ」

 僕の家に養子に出された、経也きょうやが見送りとは言いがたい深刻な表情で、それでいて怒ったように強い口調で話す。

「僕が継がないからあの家は君のだ、良かったね」

 経也に、胸ぐらを捕まれる。

「二度と帰ってくんな」

 もとから、そのつもりだ。帰ってくる訳ないだろう。

「じゃあな、経也」

 僕は、胸ぐらにある手を使って背負い投げをする。そのまま、その手を軽く払いのける。

 経也は、何か言っていたが。聞かないふりしてそそくさ吸い込まれるように、新幹線に乗って今に至る。

「気にしないで、何もかもを置いてきたのにな」

 小声でつぶやく。

「さて、どうしたものか」

 まずは、何をしようか。


 三


「何もないじゃないか!」

 考えて考えて、歩き疲れて近くにあった公園で一休み。

 特に目標もなし、することがなかった。家にはもちろん帰れない。

「帰る家が必要だ」

 僕は、まずは帰る場所を探すことにした。

「いらっしゃい」

 本通りの不動産にかけこんだが、真夏の都会にあてられた体は汗まみれになっていた。クーラのきいたその空間は天国かと思ったが一瞬で汗どころか、血の気が引いた。値段がすさまじかった、これが都会クオリティなのか。あはははは…。逃げよう。思い立ったが吉日!速攻で駆け出た。

 うぅ、思い出しただけでも恥ずかしい。お金は、まぁある。あるのだがそれは、あの家からのだ。あまり、使いたくはない。

 預金は、100万円。どうしたものか。公園に戻ってきてしまった。ここで、寝泊り?冗談じゃないよ。ふと、考え込み上を見上げる。空を輝かしているのは、星々だった。

「夜じゃねぇか!」

 この公園が好きなのは、ビルが少なくなんとなく落ち着けるからだった。田舎に、似ているからか?

「ん?あれなんだ…?」

 ぼうっと、人工的な光が灯る。焦っていたからか、昼間は気づかなかった。興味本位で近づくと、それはオンボロな家だった。いや、光があるから家である。なのか?

 目を凝らし、よく見ると玄関であろう引き戸の横に看板がある。桜山不動産。桜が見えた時に、一瞬身構えたが山か…僕の名前は、桜井悠。名乗るほどでもないから自己紹介する必要もないのだが、まぁ成り行きで。話を戻すとして、もしかしたら、安いアパートぐらい見つかるのではないのだろうか?ここなら、見つかる気がする…。オンボロだから。


 四


「いらっしゃい」

 と、座布団に正座しているおばあさんがあいさつしてくれた。中は狭く、二人が向かい合わせて座れば誰も入ることはできなそうだった。

「どんな、物件をお探しで?」

「安いアパートありますか?この店で一番の」

「あるにはあるのですが…」

 にこやかな顔が、戸惑いを見せ始める。

「もしかして、訳アリ物件ですか?」

「そうなんです」

 なるほど、それは言いにくい。でも、それにしては返事は速いな…。

「僕は、大丈夫です。そういうの」

 家柄的に、と心の中で思う。

 はい、そういうとおばさんはどこからか書類をだす。

「ここにサインを」

サラサラ~っと、名前やら何やらを書き連ねてく。数分で書き終えた。今日はもう遅いからと、行くのを拒まれたがあのオンボロに寝泊りは嫌だし、野宿は尚更なので我がmyhomeならぬmyapartment houseを目指す。地図が大分、丁寧ていねいだったのとあの公園からさほど遠くないため直ぐに着いた。

「駅からも近いな」

 歩いて、15分ぐらいか立地いいな。でも…。

「訳アリねぇ?」

 別に、外観はおかしいところはなかった。普通のどこにでもある、一般的な安そうなアパート。どうやら、ここの大家さんも兼任しているらしく。桜山さんから、鍵ももらっていた。普通に僕の部屋以外は、埋まってるんだな。各部屋、カーテンの隙間から光が漏れている。

 二階建てか。向かって真ん中に階段があり、その左右に一部屋ずつ。二階に行くと、また左右に一部屋ずつ。一階の部屋の上に、もう一つある感じだな。夜も遅いし、もう寝よう。僕のは二階の右の部屋。102号室だ。

 ガチャっと、鍵を開ければ。驚きの1LDK。だったが。

「布団もなんもないや」

 そのまま、玄関で寝た。


 五


「母さん、やめてよ…。一人で起きれる…」

 体を両手で、ゴロゴロ転がされる。ケータイは…。眠いながら、ケータイのありかを探…っ!。僕、一人暮らしやん!。

「お目覚めかのう?」

 窓から差し込む、月の光に照らされる一つの立ち姿。

「酒を呑みかわそうぞ」

 その、影は小さく角が生えていた。

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