そらの狭い町の怪奇談

蒼穹

桜井悠10才の誕生日~プロローグ~

「あぁああああああああああああああ!!」

 横たわる美紀みきだったものを抱きかかえながら泣き叫ぶ。

 それは、ピクリとも動かず。

 また、呼吸などしない。

 抱きかかえたそれは、もはや人の形をしていない。

 腰から上がないからだ。

「つまらんのう…実につまらん!」

 大天狗だいてんぐが大きな葉っぱのような扇で涼みながらしゃべる。

 美紀の上半身を根こそぎ奪った、突風はあの扇から出ていた。

「…」

 小さくつぶやく。

「あ?なんじゃて?」

 大天狗が聞き返してくる。

「てめぇ!ぜってぇゆるさねぇ!!!」

 体中から霊気れいきが際限なくあふれだす。

 おののく大天狗をよそに、僕は怒りにまかせて叫ぶ。

鴉羽織からすばおりぃ!!!」

御意ぎょい

 僕の式神が大天狗の体を引き裂く。

 引き裂く。

 引き裂く!。

 引き裂く!!。

 バラバラになった大天狗は霊気を失い存在を失った。

 僕は、気絶した経也きょうやと美紀だったものを抱え、泣きながら下山する。


 己の未熟さを痛感した、誕生日だった

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