7.身に覚えがない





次の次の次の次の次ぐらいに目覚めたのは

自分の家のベットだった

どうやって家に帰ったか覚えていないなんて

まるで酔っぱらいのようね


洗面台の前に行き自分の顔を見た

昨日とは違う、右耳のない自分

それだけじゃない

なにか……言い表しにくいけれど

少し表情が違う気がする


なんだか、ドキドキする

明らかに昨日の自分とは違う

まるで本当に違う人物になったような……



「よぉ」


「……ぉわっ!!」



後ろから急に脅かされた 彼だ

彼が私の家の中にいる

……なんで?



「なんでって顔してる わかりやす」



彼はカラカラと笑い

昨日のことを説明してくれた


あの後倒れた私を保健室まで運び

治療が終わった後、保健室の先生から

送ってやってくれと頼まれたらしく

意識がおぼつかない私の案内で

家まで運んでくれたらしい

それで私が重かったから

疲れてそのまま寝てしまった、と


あんな事があったとはいえ

危機管理能力が気薄ではないか?

知らないも同然の人を家にあげてしまうのは

常識的に考えて良くないことだろう

まぁそのまま寝てしまった彼も彼だけど



「……弥代くん、だっけ

言いたいことは色々あるけど……

とりあえず ありがとう」


「甘利でいい

礼を言うのはこっちだ お前結構美味かったぜ

二週間は持ちそうだ ありがとな

ゴチソーサン」



……最初はあれだけ怖かったのに

こんなに普通に喋れてしまっている

きっと案外彼は悪いやつではないんだろう



「んでさ、昨日の話忘れてねえよな?」


「……一緒に外に出ようって話?」



歯磨きをしていた手を止め

後ろの壁にもたれかかってる

彼を振り返りみる

昨日の血はまだ付いたままで

すっかり乾いてしまっていた



「あーそれもそうだけど

外に出たら俺がお前を

全部食ってもいいって話」



やっぱりちょっと違うみたいだ

勿論そんな話はしてない……はずだ

だめだ、昨日の記憶は結構曖昧で

確信的な証拠も何も無い



「……そんな話はしてないよ」


「嘘じゃねえよ

言ったじゃんか、保健室で」


「そんなの覚えてないよ……!!」


「じゃあ今言った

俺がお前を手伝ってやる代わりに

外に出たらお前を食う契約」



彼はにたっと笑い

私の小指を自分の小指に結びつけた



「約束、な」



うまく丸め込まれた

外に出ても彼に食べられるんなら

意味が無いじゃない


けれど私がそれ以上言い返すことはなかった

呆れたのか 真に受けていないのか

それとも別の意味があるのか


また彼の笑顔が体に焼き付いた

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