本日の時間消費方法

「昔々あるところに亀と兎‥…‥…‥もとい、山羊と兎がいました」

「ちょっと待て日向。今、何かおかしくなかったか?」


 突然、家に乗り込んできて音読会を始めようと言い出した日向に紡は初っぱなからツッコミをいれていた。


「何だ、山羊って。山羊と走るのか? 山羊が勝つだろ?!」


 日向が手に持っているのは、何処からどう見ても『亀と兎』の有名な童話である。

 分かったぞ。こいつには元々本を読むと言う概念が無いんだな。


「失礼だな紡。オレは本を読むし、文字も読むぞ」

「うわぁっ?! どうして俺の内心の声が?!」

「テレパシー」


 それを言うならサイコメトリーの方がしっくり来るんじゃ無いのか? と思っている紡を他所に、日向は続ける。


「しかも、走るなんて古典的過ぎるから早食いで」

「お前童話ナメてるだろ」

「舐めるんじゃなくて早食い」

「子供の為の人間的道徳誘導教材絵本を何だと思ってる」

「紡こそ、せめて子供の教訓教材って言って欲しいよ。国家に喧嘩売る気か」

「解釈は間違って無いだろ?! お前の改竄よりは正しい筈だ!!」


 日向は「改竄とは失礼な…」と呟きながら本のページを一つ捲る。読んでいないのにページを捲ってどうなるって言うんだ、と紡は思う。


「んじゃ、気を取り直して…『昔々あるところに、亀と兎…‥もとい、山羊とウナギが』」

「ちょっと待てぇえいッ!! 鰻っつったか? 鰻って言ったよな?!」

「うん、間違えた」

「素直に肯定すんなよっ!」

「えーと‥…‥…『もとい、山羊と兎がいました。山羊は昼寝をしていた兎に「早食いやろうZE★」と』」

「おかしいだろッ?! 何が『ZE★』だよ?! 時代考慮をしろぉ!!!」

「『兎に持ちかけたところ』」

「無視すんなぁ!!!」

「『兎は「一匹でやれよ」とつれなく言いました。めでたしめでたし』」

「どこもめでたくてぇよ!! そこで終わり? 終わりなのか?!」


 童話の要素が『昔々あるところに』と『めでたしめでたし』以外に入っていない日向流童話に頭を抱えて突っ込む紡。対する日向は、何処から出してきたのか、赤ずきんと書かれた本を手に持って開き。


「じゃ、次は『赤ずきん』…‥もとい『青ずきん』で」

「いい加減にしろおぉぉぉぉっ!!!!」


 こうして今日も二人はぐだくだとニートをエンジョイしているのだった。




 End.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る