第13話 カルトの悲劇 Ⅴ

  襲撃2時間前______

 街中はその時間としては珍しく、喧騒に包まれていた。東エリアに4000人規模の防衛兵が鉄製のパットに関節部分を鎖で補強された重装鎧に、太ももの横に巨大な可動式の雷銃剣が2本と、真ん中に柄があり両方に剣の付けられた両刃剣を手に持ち整列を開始していた。

 陣がそこかしこに設置されその間に、魔術師部隊。さらには魔導騎士が数騎づつ砦の手前に配置され、鉄壁の布陣ともおもえた。

 しかし、数時間前に実践訓練と称して東エリアに通達したとはいえ、ここまで緊迫感が街中にあふれていれば誰でも気が付くが、住民は皆一様に、これだけの準備が整っているうえ、魔物除けの結界によって、魔物はこの街に入ることすらもできない。そのことも相まって、とりあえず、いつも通りに過ごせばいいかという雰囲気となっている。何かあれば地下脱出経路。通称、裏カルトへ逃げ込めばいいという意見だろう。防衛兵だけは何が起こるかわからず不安の中に決戦の準備を進めていた。


  襲撃1時間前________

 各部隊へのテレパシーが送られる。

『………総司令官、ディサムス・アーガイルだ。』

ザザッという少しの雑音の後、威厳のある声が名乗りを上げた。

『まずは、今の状況を伝えよう。現在、敵の軍勢1万3千が北東3.5kmの地点パスティアス街道を進軍している。この軍勢は23時50分東門に到達する。15回にわたる奇襲攻撃により2千近い魔物は討伐できたが、その間に800名の同朋が犠牲となった。』

聞き入る防衛兵たちに向けて、戦況と被害を告げた。少しの沈黙が今までにないほどに重苦しい。視界ゼロの濃霧に飲み込まれたような不安感がその場を支配している。

『彼らの犠牲を無駄にするな。一人でも多くの者たちを守れ。これを仕組んだ奴らには後程、生き地獄を見せてやるとして……まずは今の状況を打開しろ。』

一瞬ぼそりと気になる言葉があったが、その重苦しさを破るようにアーガイルが兵士たちを鼓舞する。

『前衛指揮は、私の側近である。‘‘炎牙’’ヘレン。結界防衛指揮に‘‘光精’’マルティナが務める。』

前線式にこの街最強の炎魔法の使い手‘‘炎牙”ヘレンの名前が挙がるとともに前線で整列している兵士たちが沸き立つ。それだけ、戦場において彼の様に功績を持った強者は兵士の士気を高める。

実際に戦場に立ったヘレンはまるで別人のような殺気を纏い敵の大部隊を歪んだ笑みを浮かべながら薙ぎ払う。いわゆるバーサーカーというやつだ。

 逆に、“光精”とうたわれるマルティナは、アーガイルの養子にあたるがつい先日、側近の任務に就いたばかりで、実績がない。そのうえ、就任も各砦の司令官補佐以上の物にだけ通達されていた。そのために兵士たちは首をかしげ、お互いに顔を見合わせ、困惑した表情をしている。

『___________諸君らの肩にはこの街に住む40万人の命がかかっている。皆の健闘を祈っている_______作戦開始!!』

数分の訓示ののちそう締めくくられ、兵士が一斉に持っている両刃剣や槍、ワンドなどを空に掲げ雄たけびを上げる。瞬間にして街がその大音量にビリビリと振動した。


  襲撃5分前_______

 東門の外に最前線の部隊、1500名が展開し、門の前に500名、ヘレンを先頭に立ち塞がっている。周辺の森に新たに結界を張り、1000名の兵士がそこで息をひそめて、進軍してくる魔物を待ち構えている。

 街の中では街を16のエリアに分割し、エリアの中心部から結界を展開させた。これにより魔物は大通り以外を通ることができない。それを最大限に生かしつつ東側を重点的に固められている。東門からまっすぐ伸びる大通りを200m程進んだところに第一防衛ラインの陣が築かれ、引付役の重装兵が前方を固め、軽装の遊撃兵がその後ろに控えている。

 そこから500m程奥に行ったところには、術者の属性によって弾が変化する属性魔導砲台を要する火力特化型の魔導兵器部隊と補給班。さらに後方300mのところにある東エリア中央砦。その前にある東噴水広場に魔導騎士隊が10騎。砦は前後2枚の門が固く閉ざされている。ここから中心部に向けていくつかの無人の補給陣と防壁が続き、東エリア中央砦から1000mの地点で複合部隊の配置された最終防衛ラインが置かれていた。

 各陣や砦の部隊には、兵士の4分の3がやられた時点で、ゆっくりと後退しつつ後ろに控える部隊と合流するように命令が下されている。

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