第12話 カルトの悲劇 Ⅳ
「ヘレン様…この先敵影はございません。離脱ポイントへお急ぎください。」
どれだけヘレンに連れられ歩いただろうか。突然聞こえたくぐもった声にユーリが顔を上げる。そこには、赤いローブに身を包み、白狐と右頬に赤い線が3本入った面をかぶった男が立っていた。
「わかった。アーガイル総司令は無事なのか?」
ヘレンは、赤いローブの男の前にしゃがみ込み声を潜めて聞いた。それに対して、男は狐の面を半分はずしぼそりとつぶやいた。その為、ユーリにはその答えは聞こえなかった。ヘレンは、男に何か指示を出すと立ち上がって西の方向にぼんやりと見える崩れた要塞をみつめた。
赤いローブの男は再び、狐の面をつけて一礼してユーリの抱く少女をひったくると去っていった。しばらくの間、要塞を見つめていたヘレンはこちらを振り返り微笑みを浮かべながらもいつものおちゃらけた雰囲気を出し
「そろそろ落ち着いたか?ユー。ひどい顔してるが、少女はあいつに任せとこうやー俺らにゃやらんといけんことがある」
そういうと、北門を爪で指しニカッと笑い走り始めた。
襲撃6時間前_______
ヘレンは東の街門の前に立っていた。太陽は西に沈み辺りは夜の帳が下りている。門の前の少し開けたスペースの先に、草原へと続く道が続いている。道は発光石の光が森の中に続く街道をポツリポツリと照らしているが、その感覚は広く部分的で暗い箇所が多くある。
ヘレンはつい先ほどアイリの監視についていた部下から彼女がそろそろ北門を通過するという情報を得て砦から出てきていた。騒ぎが起きた際、見失う可能性もある為、彼女のにおいを記憶する為であった。
数分後、水色のぼんやりとした光が森の街道から北門に近づいてきた。その周囲は、周りに比べ明るい為、森を挟んで300m程の距離があるもののはっきりと光が確認できる。それでも声までは届かない距離で、微かな夜鳥や虫の声が響いている。光の進行速度ものんびりとしたもので、あくびを噛み殺しながら眺めている。それから数分後、水色の光は最後のカーブを曲がり。あちらからも北門がはっきりと確認できるところまで来た。光の主は、小さな影が5つ大きな影が2つ。小さな影を前後で挟むようにこちらに近づいて来ていた。ようやく、彼らの声が北門の小門に立つヘレンにも聞こえてきた。
「やっと、ここまで帰ってきたなー」
先頭に立ち水色の炎を掌の上で灯している影が苦笑い交じりにいうと、
「ユーお兄ちゃんがいつまでも寝てるからだよー」
すぐ後ろにいた小さな影がそれを非難するように言った。
「ぐっ……そういうんだったら起こしてくれたらよかっただろ?」
正論を言われ言葉に詰まったと思ったら、開き直って穏やかな声で話すのが聞こえた。
徐々に近づいてきた一団の顔が確認できるようになってきた。先頭に立つのは10代中ごろくらいの少年で灰色のフワフワとした短い髪が眉間辺りまで伸びている。少し肌寒いにもかかわらず薄着だ。その後ろに8歳ほどのオレンジ色の髪を後ろで結った女の子が少年の袖をつまむようにして歩き、少年を見上げている。その後ろで、男の子と女の子が二人ずつ、肩まである茶髪をながした少女は先頭を歩く少年と違いこの時期にあった薄目のセーターとロングスカートを身にまとっていた。
門前のスペースに出たところで、少年の掌にふわふわと浮かんでいた水色の炎は照らし出されていた空間と共にゆっくりと小さくなり、やがて消えた。このスペースは森の中よりも発光石と街からこぼれた光によって明るくなっていた。
「よっし、到着ー怖い時間は終わりだぞー」
そう言って、少年は子供たちに振り返った。
「ユー兄……まだそんなこと言ってたのー」
と、その中の男の子の一人がからかうように言った。
「いやいや、お前らがビビってたから水灯つけてやったんだろー。忘れたとは言わせねーぞ」
ユーリは少年に向けてムキになりながら答え少しムスッとした顔をすると、門に向き直りずかずかと歩きはじめた。
「ユーリ、そんなんで拗ねないのー、大人げないよ?」
集団の後ろで男の子と女の子に挟まれ手をつないでいる少女が少しあきれたように前を行く少年に言った。
少しむくれたような少年が小門を通るために近づいてくるが、拗ねているためかユーリはヘレンに気が付きもしない。先ほどのやり取りを見ているヘレンは少し苦笑いしつつ平静を装って、ユーリに声をかけた。
「ユー、今日は随分と遅かったじゃねーか。アイリちゃん連れまわしすぎんなよ~にしっしっし」
本当に気が付いていなかったようで、ユーリはメンチ切る様な怪訝な顔をしながらヘレンを見上げた。目が合った瞬間、はぁーと溜息を吐きそうな勢いで、首を振ると
「ヘレンか…相変わらず目立つな…てか、連れまわしてないからな」
その反応に手厳しいなーと感じながらヘレンは後頭部を左手でボリボリと掻いた。
そうしているうちに後ろから子供たちとアイリが追い付いてきた。ユーリに悟られないように一瞬アイリをちらりと見た。それと同時に炎魔法のチェイサーを生成するとアイリに向かって放った。このチェイサーは、術者以外に認識できない2つの発光体を生成して、2つが近づくとその距離に応じて赤く発光する。ユーリを見ると反対側に立っている門兵を見て首をかしげている。そして、腑に落ちない顔をしながらヘレンに向き直ると疑問を口にした。
「お前がここにいんのも珍しいな…」
聞かれるとは思ったが、どうしたものかと考えとっさに口から出まかせが出た。
「んー?たまに部下の顔を見に来るのは上官の務めってもんよ。」
おっ…流石俺、上司の鏡だなと思いながら無意識に頬をほころばせた。それに気が付きとっさにごまかすように
「お前もさっさとアイリちゃんたち送ってけ」
いった。
ユーリはまくしたてられ、まだ、腑に落ちないような顔をしていた。が、「ま、こいつはこんなやつだよな」という顔をして、ふっと笑うと
「まぁ、そういうことにしとくよ」
とつぶやいて、先ほどまでむくれていたことを忘れて子供たちと共に門を通って街の中へと歩いて行った。一番後ろを歩くアイリの後ろには、ふよふよと赤い球体が揺らめいていた。
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