第11話 脇道の少女
カルト中心部へ向けて走りながら語るヘレンとユーリの間にかすかな沈黙が流れた。微かなアイリの寝息が耳元に感じ、それを周囲の建物が焼けるパチパチという音がかき消す。徐々に噴煙がそこらじゅうを霧のように覆い尽くす。視界も徐々に悪くなる。もうじき、崩壊したブリュンヒル砦の姿が見えてくるはずだ。
「______て……」
不意に周囲燃える音の中に今にも消えてしまいそうな声が聞こえた気がした。ユーリはとっさに立ち止まる。
「どうした?ユー……?あ____?」
横から急にいなくなったユーリに気が付き、ヘレンも立ち止まりこちらを振り返り声をかけて大きな耳をピクッと動かした。
「………要救助者がいるらしーな」
そう言って、鼻をひくつかせヘレンはふらふらと歩き始めた。獣人種は人種、亜人種の数100倍の嗅覚で匂いを嗅ぎ分ける。それを使って微かな人の匂いを嗅ぎ分ける。ユーリもヘレンに続いて歩き始めた。
捜索開始から数分大通りだった場所から脇道を覗き込んだ時、少女が瓦礫の下敷きになっていた。少女は消え入りそうな声で「たすけて……たすけて……」とつぶやいていた。ヘレンとユーリはそれに気が付き、ユーリだけが駆け寄ろうとする。不意に大きな獣の手が肩に置かれユーリは動けなくなった。激高しながらその手の主を振り返り
「何しやがるっ…早く助けねーと死んじまうだろ!!」
喚き散らしていた。それに対しヘレンは顔を背け目を伏せた。その表情は、怯えや恐怖といったものが見て取れ、彼に似合わないかすかなつぶやきを残した。
「……行くなら…覚悟しておけよ…」
その表情にユーリは動揺を隠し切れないところを抑え、腕を振り払い走りだした。
「大丈夫か!!今助けるからな…」
そう叫びながら駆け寄った。少女は先程よりもぐったりした様子をしていたが、ユーリの呼びかけにピクリと反応を示しゆったりと顔を上げ始める。
「もう少し待ってろ……今すぐ出して_____っ!?」
そう言いながら駆け寄り手を差し伸べたところで少女と目があって声を失った…少女の顔は瞼や頬がやけどで爛れ、涙や鼻水で顔がぐちゃぐちゃとなっており、口が半分ほどしかあかない状況にあり、左目は半分しか開けられず、右目はただれた肌によって開けることもできない状況となっていた。
一瞬目があった少女は、微かに微笑みを浮かべた気がした。しかし、それは爛れて歪んだ顔からは判断がつかなくなっていた。
ユーリも恐怖心から僅かに後ずさる。うつろな目をした少女は弱々しく視線を泳がし目の前に立つ人物が誰なのかわかったように安心したようにつぶやいた。
「…ユーお兄ちゃん……ありがとう_____」
今の言葉で、草原に遊びに来ていた女の子の一人であることがわかった。しかし、その子が誰なのか…もはや知るすべはなくなっていた。
その言葉を最後に少女の体から力がフッと抜けて上がっていた頭が力なく垂れ下がる。その姿を見て、ユーリは膝をつき少女の亡骸を必死になって瓦礫から掘り返し、引っ張りだす。少女を掘り出して、背中に感じる暖かさと反し、少女の亡骸を抱えると少女の重さはとても冷たく軽かった。ユーリは二人分の重さがのしかかった。
少女の顔を見てユーリはした唇をかみしめて顔を背け、大通りで待っているヘレンの方へ歩いた。
「やっぱ…ちゃんと止めた方がよかったな……すまん…」
少女を抱え、アイリを背負ったユーリがうつむきながらヘレンの前に立つと、ヘレンが不意に誤った。ユーリの嗅覚から考えると、少女がもはや助からないことはわかっていてさっきのような反応をしたのだろう。それを無視したのはユーリだ。
「いや…せめて、出してやれてよかった……行こう…」
そして、少女を抱えたままヘレンと歩き始めた。
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