第6話 眼下に広がる光景

 ガタガタと窓の揺れる音がしてユーリは薄目を開いた。一応室内に視線を泳がせる。月明かりの差し込む窓が唯一の明かりが部屋の中をぼんやりと照らし出しているが、特に異常を感じなかったユーリは薄目を閉じた。しかし、静寂の中に聞きなれた音が微かに聞こえることに気が付いた。それはブゥオン、ブゥオンと大きく力強い翼の音で、それが徐々に近づいてきているように感じていた。そして直後、微かな地響きが家を揺らした。そして決定打となったのは、ヴァンッヴァンッという聞きなれたグリフォンの鳴き声が周囲にとどろいた。そこでようやくユーリは異変に気が付いき飛び起きた。とっさに枕もとに置いてあった時計を見た。時刻は午前1時を過ぎた辺りだった。

「ひとまず…家から出て様子を確認しないと…これまでシェイドがそだてたグリフォンが真夜中に騒ぎ立てるようなことはなかった…しかも、この家のすぐそばに来てまで…」

 とっさに上着を手に取りはじき出されるような勢いで家の外に出た。直後、ユーリは目を見開いた。

 予想通り家の前にはグリフォンが来ていた。しかし、その様子は数時間前とはあまりにも違っていた。足には矢が突き刺さり、羽根や身体のいたるところに血が飛び散っている。さらには一部、肉片や足にはちぎれた獣人種の腕をつかんでいる。息も荒いそんな姿を見てユーリは一瞬うろたえた。事態はユーリが考えているよりも深刻な可能性を感じ取った。

 グリフォンはユーリの姿を確認すると足を引きずりつつ歩いてきた。ユーリもとっさに近づいた。ユーリが手を伸ばすとグリフォンは、ユーリの服の首をくちばしで挟むと少し乱暴に背中に放り投げ翼を広げた。ユーリはとっさにグリフォンの背中にしがみつく。直後グリフォンは草原に向かって助走を始めた。ユーリは何度かグリフォンの背中に乗ったことがあった。しかし、今回はそのどれとも違っていた。気遣いは全くない。グリフォンの本来の姿と言えた。ユーリは気を抜いたら振り落とされてしまいそうで、グリフォンの背中に一心不乱にしがみついた。グリフォンのスピードがグングンと上がっていく。強靭な爪が地面を抉るほどの力で躍動し、これまでに感じたことのない衝撃がグリフォンの疾走によって生み出された。夜の草原の風を切り裂いて走る。をグリフォンとユーリの身体が地球の重力に逆らって飛び上がった。

 ユーリはぐっとその衝撃を堪えた。数秒間、ゴーッという激しい風の音がユーリの聴力を奪った。ぴたりとその音が止み、ユーリは意を決して、目を開けた。眼下の街を見下ろした。そこには衝撃的な光景が広がっていた。

 「なっ……なんだ…これ……」

からからに乾いた喉からようやく絞り出した一言だった。



ほんの数時間前までそこにあった。日常はすでに眼下からは失われていた。

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