第4話 商門都市・カルト

 目の前には30mはあろうかという外装レンガのコンクリート壁が目の前にそびえ立っていた。正面には高さ15m、道幅20m程の巨大な門が口を開けている。中からは眩い光が漏れ出し。そこが壁の外とは別世界の様でもある。その門は左右に小門があり歩行者はそこを通るようになっていた。

 小門の端には軽装鎧を身に着けた門兵が二人立っていた。そこを通ろうとしたとき門兵の一人が話しかけてきた。

「ユー、今日は随分と遅かったじゃねーか。アイリちゃん連れまわしすぎんなよ~にしっしっし」

 なれなれしい感じの男は、2m50cmはあろうかという身長で、やけに飛び出た鼻と口。肉食動物のような目つきと、不相応にふさふさとした白と茶色の体毛を全身にはやし、頭の明らかに高い位置にとんがった耳。そして、特徴的なモフモフとした尻尾をはやしていた。どこをどう見ても狐だった。平然と二足歩行し門兵の軽装鎧を着て、背中にやたらとでかい斬馬刀を背負っていることを覗いては

「ヘレンか…相変わらず目立つな…てか、連れまわしてないからな」

ユーリにそういわれて、「照れるぜー」と言わんばかりに後頭部をかいている男は、ヘレン。獣人種で、狐族の若武者だ。今日は東門の警護についているらしいが、普段はカルトの街の中央にあるブリュンヒル要塞で防衛兵養成のため教官を務めている。相当腕が経つのは確かだ。

 ふと、隣の門兵を見ると、一瞬目が合って、すぐにそらされてしまった。微かな緊張が伝わってきたが、気にしないことにしてヘレンに向かってつぶやいた。

「お前がここにいんのも珍しいな…」

「んー?たまに部下の顔を見に来るのは上官の務めってもんよ。お前もさっさとアイリちゃんたち送ってけ」

 どこかすっとぼけるような言い回しだが、ヘレンに関しては、いつもふざけているようなものだ。

「まぁ、そういうことにしとくよ」

どこか違和感のようなものを感じつつ、小門を子供たちを連れ立ってくぐった。


 門をくぐる瞬間あまりの明るさの違いに一瞬目が眩んだ。目が慣れてくるに従って見えてきたのは大通りを馬車が走り抜け、通りに面して飲食店やらが軒を連ねる。周りを歩いている人々は、人種をはじめ、さきほど遭遇したヘレンのような獣の特徴をした獣人種、人の特徴と耳や尻尾のような獣の特徴を併せ持つ亜人、明らかに他と縮尺がおかしい巨人種と小人種、時折、空を元気に飛び回り光を振りまく妖精種。様々な人々が思い思いの時を過ごしている。

 種族の壁を越え酒を酌み交わし笑いあう姿は、実に平和そのものだ。

 この商門都市カルトは、チェストヴォ共和国の最南端に位置し、南北に8.5km、東西に8kmの大都市。中層域の大陸や友好を結んだ下層域との空船での貿易を主に、緊急時には要塞としての機能を果たす街。中央にこの街随一の堅固な要塞と、街のいたるところに22の砦が点在する。警察組織や砦勤務の防衛兵たちにより治安が維持されている。


 

 喧騒の中を子供たちと歩く、子供たちはおいしそうな香りにつられつつもしっかりと我慢してついて来ている。時折、「もう、腹減ったーーー空腹で死ぬーーー」と駄々おこねる子もいたが一応持ってきておいた、飴を上げたらひとまず、落ち着いていた。

 ユーリとアイリは一人一人の家を東門から近い順番で送り届けていった。30分ほどかけてまわり、ようやく最後の子どもを送り届けた。

 東側の中央広場の噴水の前にあるベンチに2人は腰を下ろした。毎日毎日、送り届けるのは結構きつい…日々の疲れを感じてかユーリは腰かけたベンチでぐったりとして、空を仰ぐ。アイリはそれをみてユーリの顔の前にこっそり屋台で買っておいたケバブのような食べ物をかざした。ユーリはそれを見て心底驚いた顔をした。

「え…うそ…いつの間に………」

「えへへー、ユーリが最後の家で挨拶してるうちに2人分買って来たんだー」

してやったりと言いたげな顔で笑うアイリ。普段おっとりしている彼女には、こうして驚かされることがしばしばある。上手いこと人の意識の外をつくのが得意なのか、気がついたら後ろで本を読んでいることもあったりする。

「じゃ、ありがたく貰う。」


 ケバブを食べてから少し休憩して、ユーリはアイリを送って行くことにした。

ユーリは「よしっ」とつぶやいて立ち上がると右手を差し出しながらアイリに

「今日も送ってくよ」

と言った。アイリも黙ってうなずいてその手を取って二人は歩き始めた。

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