第七話 コンビニエンス・ブラックホール

 時田隆二ときたりゅうじ、大学一年生。

 実家が田舎の山奥にあるため、故郷と同じ県内にある私立大学法学部に進学したのだが、一人暮らしをしている。

 両親からは生活していくためのじゅうぶんな仕送りをしてもらっていたが、せめて家賃くらいは自分で稼がなければなるまいと、週に二回だけアルバイトをしている。

 隆二がバイト先として選んだのは、時給が高くなるコンビニの夜勤だった。

 そのコンビニは、町の中心部から少し離れた郊外にある。すぐ前の道路が片側二車線の国道になっているので、いわゆるロードサイド店舗に分類されるだろう。

 金曜日の夜と土曜日の夜の午後11時から翌朝6時までの7時間勤務。仕事を終えた朝は必ず休日となるため、徹夜明けでも学業に支障はない。

 夜勤は防犯の関係から二人勤務態勢が義務付けられており、隆二が一緒にシフトに入るのはいつも店長の阿部だった。

 店長は40代後半の男性。長年の不摂生が祟っているのか、おそらく同年代の男性よりもかなり老けて見える。不健康に太っており、顔はいつもくすんだ灰色をしている。

「最近、夜勤に入ってくれる子がなかなかいなくてね。できれば人に任せて家で寝ていたいけど、俺がやるしかないんだよ」店長は口癖のように繰り返しそう言っていた。

 店長は週7日つまり休み無しで夜勤に入っている。ちなみに月曜から木曜の夜勤は、グエンさんというどこかの留学生がシフトに入っているらしいのだが、隆二とは勤務日が重なることがないので、ほとんど顔を合わせたことがない。


 コンビニの夜勤は、客はほとんど来なくても、意外に忙しい。

 日付が替わった夜12時ころに、コンビニ本部のロゴ入りの白いトラックがやってきて、弁当・サンドイッチ・紙パックのジュースなどの冷蔵品の入荷がある。それをポータブル端末で手早く検品し、棚に並べる。その後は別のトラックが来て、アイスクリームや、店内調理する前のレジ横に陳列してあるフライドフーズや中華まんなど、冷凍食品の入荷がある。

 それを片付け終えると、午前1時40分から、菓子類・カップ麺類・ペットボトル飲料・日用品等の入荷となる。それらの商品は大型トラックのコンテナに整然と乗せられて、次々と店内に運び込まれていく。

 それらを検品・品出しして棚に入りきらないものはバックルームに片付けると、だいたい午前3時を過ぎる。

 その後に床清掃を30分ほどかけて行い、ここでようやく一息つける。店長と交代で40分ずつの休憩を取ることになるのだが、その間に雑誌・書籍の入荷がある。ほかの入荷トラックは計ったかのように毎回ほぼ同じ時間にやってくるのに、雑誌の入荷だけはかなり時間が曖昧だった。午前3時半くらいに来ることもあれば、5時を過ぎることもあった。

 しかし雑誌・書籍はあまり量が多くないため、一人で片付けるのにも苦労しない。休憩していないほうがやってきた入荷を片付けるという決まりになっていた。

 そして、朝4時から5時くらいのあいだ、表のゴミ箱の袋を入れ替えて、ゴミは店舗裏にある物置に置いておく。ゴミ収集車は毎朝5時過ぎにやってきて、その物置からゴミ袋を回収して行く。

 午前5時すぎくらいから、会社に出勤する前に栄養ドリンクとサンドウィッチなどを買っていく客が来始める。

 そして午前6時が近くなると、朝勤の須藤さんが出勤してきて、午前6時に隆二の勤務は終わる。

 仕事はだいたいいつも、こんな流れになっていた。



 2月の下旬、土曜日の未明。そろそろ花粉が気になり始める季節。

 隆二はその日も夜勤に入っていた。

 床清掃を終えると、午前3時半を過ぎていた。

「時田くん、ごめん。ちょっと眠たいから、先に休憩取らせて」店長が言った。

「あ、はい。お疲れ様です」ふらふらと歩きながらバックルームに向かう店長の背中に、隆二はそう声を掛けた。

 店長はいつも、この深夜の休憩時間は、毛布を背中にかぶって、勤怠管理や発注などを登録するストアコンピュータの置いてあるデスクに突っ伏して、いびきをかきながら眠っている。

 店長は隆二が仕事を終えた午前6時以降も勤務を続けている。隆二が出勤する1時間前の夜10時から店に出ていて、発注の締め時間となる翌日の正午まで勤務しているらしいので、店長は毎日合計14時間ほど働いていることになる。

 コンビニ本部のフランチャイジーとなって、一緒に店を開業した配偶者とは去年離婚したらしいが、本部との加盟店契約は10年縛りとなっているため、仕方なく店を続けているということだった。

 これだけ働いていても、

「俺の給料、たまに時田くんの時給以下だよ」みたいなことを、何度か自虐的に言ったことがある。

 よっぽど立地に恵まれている場合を除いては、コンビニに限らず客商売のフランチャイジーなんてなるもんじゃない、ということもよく言っている。


 午前3時50分を過ぎたころに、雑誌の入荷のトラックがやってきた。

 ドライバーがトラックの荷台から、ビニルの紐に梱包された雑誌の束が店内に運んで、それが終わると伝票を隆二に示した。隆二はその伝票に検収印を押した。

 梱包の紐をハサミで切り、雑誌を棚に並べる。量が少なかったため、10分も要せずその作業を終えた。

 この間、深夜であるため来客はまったくなかった。

 朝までに残す仕事は表のゴミ箱の袋を交換することのみだが、隆二はこの作業が最も嫌いだった。

 コンビニから排出されるのは事業ゴミということになるのだが、それを処理するのは一般家庭と同じ市の焼却施設のため、家庭ゴミとまったく同じ分別を要求される。つまり、いいかげんな分別をしていると、苦情が来るばかりでなく、場合によっては引き取ってもらえないということもあるのだ。

 店舗前に置いてあるゴミ箱は、燃えるゴミ・プラスチックゴミ・資源ゴミ(缶)・資源ゴミ(ペットボトル)・資源ゴミ(ビン)の5つを種類を分けて置いてあるのだが、客がその通りに捨ててくれるとは限らない。コーヒーの缶がビンの箱に入っていたり、ペットボトルが燃えるゴミの箱に入っていたりすることは日常だった。

 なので、ゴミ袋をいったんゴミ箱から引っ張り出し、分別しなおさなければならない。まったく、人の排出したゴミを扱うというのは、不愉快な作業だった。

 しかも、ときおり極めて不衛生なゴミが捨てられていることもある。たとえば、中身が半分くらい残ったままの牛乳パックや、使用済みのゴム製品など。見ず知らずの人間の欲望の残骸の後始末をさせられているような気分になる。

 店長と休憩を交代した後からこの作業を始めようかとも思ったが、時間が経ってもゴミ箱の中身が増えることはあっても減ることはない。

 覚悟を決めてゴム手袋を装着すると、ゴミ箱からゴミ袋を引っ張り出して、分別を開始した。

 まずはビンと缶の袋から。なぜかはわからないのだが、ビンと缶のゴミ箱は、ほかのものに比べてきちんと分別されていることが多い。実際その日も、ビンのゴミの中に缶が3本、缶のゴミのなかに栄養ドリンクのビンが一本と某大手コーヒー屋のプラスチック容器が混ざっているだけだった。

 それらを分別しなおすと、新しいゴミ袋をセットして、ゴミ箱の扉を閉じる。

 そして次に、燃えるゴミの袋を引っ張り出した。

 そのゴミ箱には、紙類や割り箸などの可燃物しか入れてはいけないのだが、やはりプラスチックに分別されるべきゴミがたくさん放り込まれている。

 それらをひとつひとつ分別していく作業を続け、ようやく終わりに近づいたころ、底のほうにとある有名量販店の紫色の大きめのビニル買い物袋があるのを見つけた。袋の口は堅く縛ってある。

 なかにはいったい何が入っているのだろう。ペットボトルでも入っているなら、それは資源ゴミのほうに分別しなければならない。

 確認するために、その紫色のビニル袋を引きちぎるようにして開けると、その中身が重力に従って袋の裂け目からボトリと地面に落ちた。

 暗い夜のなか、店内の明かりがそれを照らす。

 それは間違いなく、人間の右手だった。手の甲の皮膚は、コーヒー牛乳のような茶褐色にくすんでいる。

 いや、そんなはずはない。人形かマネキンのものだろう。地面に落ちたそれを足で軽く蹴ると、切断面がこちらを向いた。

 擦り下ろされたような肉に埋没するように、白い骨がのぞいている。

 ようやくそれが作り物ではない、本物の人間の手であると気づいた隆二は、

「うわああああああ」という叫び声を上げた。

 一気に心拍数が上がり、全身が寒気に襲われるのに、なぜか額から汗が噴き出す。

 すぐに店内のバックルームに駆けて行き、眠っている店長の肩を揺すった。

「手が、……手があるんですよ。落ちてるんですよ、ゴミが」

 口がまったくうまく動かず、自分でも何を言っているのかよくわからない。

 店長はその様子に一気に目を覚ましたらしく、

「どうした? 何があった?」と言った。

「手を捨てて……。手が落ちてるんです」

 隆二はそう言って、店の出入口の方向を指さした。

 店長が立ち上がって、小走りに表に出た。隆二もおそるおそる、その後に続いた。

 表に出ると店長は、地面に落ちた人間の手を見下ろした。

 そして、すべてを理解したかのように隆二の目を凝視すると、

「誰かに、見られた?」と言った。

 隆二は首を振る。

「警察にはまだ通報していないな?」

 首を縦に振る。

「よし」

 店長はそう言って店内に戻り、夜中に品出し作業をしているうちに配達されてきた店売り用の新聞を一部手に取ると、また表に出てきた。

「いったい、どうするんですか?」隆二が尋ねると、店長は無表情のままで、

「捨てる」と言った。

「え、捨てるって、どういう……。警察には……?」

 どう考えても、人体の一部がここにあるということは、殺人事件か少なくとも死体遺棄事件だ。

 店長は大きくため息を吐いた。

「あのな、時田くん。こういうの、警察に通報すると意外にめんどうなんだよ」

「めんどうって、何が……?」

「コンビニ加盟店のあいだでは有名なんだけど、昔とある店舗の女子トイレで、産まれたばかりの赤ん坊の死体が見つかった事件があったんだよ。犯人は、店員に気づかれないうちにコンビニのトイレで出産して、そのまま赤ん坊を絞め殺して、放置して帰っていったっていう。もちろん店主は警察に通報したんだけど、鑑識の証拠調べ、防犯カメラのチェックや指紋採取のために営業を休まなければならなくなってね」そこまで言うと、店長は少しのあいだ黙った。

 若い女がひとりで出産し、扱いに困った赤ん坊を殺して放置するという事件は、たいへん痛ましいものだが、何度か耳にしたことがある事件だった。

 店長は話を続けた。

「まあそれだけならまだマシなんだけど、もちろんニュースは全国的に報道されて、店名は出されなくても、ご近所には知れ渡る。犯人は10代半ばの女の子で、すぐに逮捕されたよ。でも、店にとっては事件はそれで終わりじゃないんだ。その後、常連客の一部は店に来なくなって……、そりゃ死体遺棄があった店なんか行きたがる客はいないだろう。しかも店の女子トイレでは夜中になると赤ん坊の泣き声が聞こえるとか、妙なうわさが立つようになってね。もちろん売り上げは激減だよ。で、結局どうなったと思う?」

「どうなったんですか?」

「コンビニ加盟店の夫婦は借金で首が回らなくなって、自殺したんだ」

 それを聞いて、隆二は呆然とするしかなかった。

「幽霊のうわさが立って売り上げが落ちたからって、犯人に請求なんてできない。請求できたとしても、払えるわけがない。商売なんて、うわさ話の吐息程度で、どっちにも傾くんだよ。だからね、こういうものが出てくるとね」

 店長は地面に落ちている右手を、痛めつけるように足で踏んで、

「バレないように処理するのが一番なんだ。だいたいどこも、同じように処理するのが、コンビニ加盟店の公然の秘密になってるんだよ」と言った。

「処理って……、どうするんですか?」

 店長はそれには答えず、しゃがみこんで平然と手を持ち上げた。そして、

「こりゃ若い女の手だな。ほら、指輪なんかしてる」と隆二に見せつけて来た。

 小指に金色の細いピンキーリングが嵌っていた。

 思わず胃液が込み上げてきたが、なんとか口を抑えて吐かずにおさめた。

「このリングは、燃えないゴミだな。まあ安物だろうけど」

 店長は手からリングを引っ張って外すと、ポケットに入れた。

 そしてインクのにおいが強い真新しい新聞紙で切断された手を包むと、いったん店内に入った。間もなく、ガムテープを持って表に出てきて、手の包まれた新聞紙をぐるぐる巻きにした。

「これで、よし。こんだけやっときゃ、単なる新聞紙の塊にしか見えないでしょ。これを燃えるゴミのゴミ袋の底のほうに紛れ込ませておけば、回収してもらえる。まあ、どうせ人間なんていつかは燃やすんだから」

 その場に立ち尽くしていると、

「ゴミの分別の続きは俺がやっとくよ。時田くんは休憩行っていいよ」店長はそう言って、隆二がやりかけにしていた分別を手際よくやり始めた。

 ちぎれた人間の手を前にして、あまりに平然と処理した店長を見て、ひょっとして店長は過去に数回、こういうことをやったことあるのだろうか、などと不穏なことを考えた。コンビニのゴミ箱に人体の一部が捨てられているということは、頻繁に発生するイベントなのだろうか。

 隆二が見つけたのは手だったからまだマシだったが、もし頭部が捨てられていたら……。

 その日、その後のことはあまりよく覚えていない。5時すぎにやってきたゴミ収集車は、いつもと変わらない様子で倉庫から人間の手が含まれるゴミを回収して行った。

 6時が過ぎ、帰り間際に店長が、「お疲れさん。これ今日の迷惑料ね」と言って一万円札を裸のまま手渡してきた。

 訳がわからないまま受け取ると、

「ぜったい、内緒にしてよね。じゃないと、全国のコンビニ加盟店が困るんだから」店長は疲労に満ちた顔に苦笑いを浮かべながら言った。


※※※


 大学4年の8月の夏、隆二は実家に帰省していた。

 お盆が過ぎた8月下旬、実家には親戚が多く集まっていた。長らく会っていなかった顔も多く、「おひさしぶりです」などとあいさつをする。

「そういや、隆二はコンビニでバイトしてたこと、あったんだっけ?」

 そう言ってきたのは、3つ年上のいとこの時田高志だった。

「大学1年のころに、ちょっとの間だけど」隆二はそう答える。

「聞きたいんだけど、コンビニのゴミ箱に不審なものが捨てられてることって、あるの?」

 そう問われ、隆二はにわかに鼓動が早くなった。

 高志は去年、試験に合格して県警の警察官となっていた。警察学校修了後は警察署に配属され、刑事として勤務している。

 あの後、二か月ほどコンビニの夜勤は続けたものの、やはりゴミ箱のゴミの分別をするのがこの上なく苦痛になったため、辞めてしまった。バラバラ殺人が発生したというニュースはなかったので、おそらくあの右手は可燃物として市の焼却場で処理されたのだろう。

 まさかあのときは、身内に警察官になるものが出てくるとは想像もしていなかった。手を「処理」したのは店長だが、隆二も紛れもなく共犯者だ。

「不審なものって、たとえば?」隆二は平静を装って訊き返す。

「たとえば、人体の一部とか」

 さらに鼓動が早くなる。

「そんなの、あるわけないじゃん。なんで、そんなこと聞くの?」極力、冗談めかしてそう答えた。

 まあそうだよなあ、とぼやくように高志が言うと、次のようなことを述べた。


 先月、警察署にとある人物が駆け込んできて、「自分を逮捕してくれ」と要求してきた。

 どういうことかと聞いてみると、その男は三年ほど前に人殺しをしたのだという。マッチングアプリで女と売買春をする合意をして自宅アパートで会ったのだが、事後に金銭の支払いについて揉め、女を殺害してしまう。

 死体の処理に困ったため、風呂場で女の遺体を解体し、バラバラになった身体を数日掛けてあちこちのコンビニのゴミ箱に捨てた、と。

 で、三年経った今になって、なぜかその女の幽霊が毎晩枕元に立つようになり、怖くなったので罪をつぐなうために自首することにした。

 警察署は、殺人の自首となるとただ事ではないため、県警本部の刑事部捜査一課と協力して、男が遺体を捨てたと自供したコンビニに聞き込みに行ったが、手がかりは全く得られず、三年前のこととなると24時間連続で撮影し続けなければならないコンビニの防犯カメラでは、データはすでに上書きされて残っていない。

 もちろん、遺体はどこにも見つからなかった。被害者の慰留品や、犯人がバラすときに使った刃物なども、すでに処理済み。共犯者や目撃者もいない。男が当時住んでいたアパートも解体されていて、ルミノール反応を取ることもできない。

 つまり、遺体も凶器も証言なく、唯一あるのは犯人の自供だけ。

 男は何度も「頼むから逮捕してくれ、罪を償わせてくれ」と懇願したが、警察では扱いに困ってしまった。

 地検の刑事部に問い合わせても、「そんなのを送検されても困る」という返事だった。


 それを聞きながら、隆二は少しずつ落ち着きを取り戻すことができた。

「憲法第38条は、知ってるよな?」と高志は言った。

 法学部に通っている隆二は、もちろんその内容を知っている。


『日本国憲法38条 (略)何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ又は刑罰を科せられない。』


 つまり犯罪者がどんなに悔い改めていても、自白以外の証拠がなければ国家は罰を科すことはできない。

「で、その男、釈放したの?」隆二が訊いた。

「釈放というか、そもそも逮捕もしてないんだけど。まあ、帰ってもらうしかないよな。その後も何度か逮捕してくれって言って来たようだけど、『逮捕してほしいなら、あんたが人を殺した証拠を持って来い』って追い返したようだ。有罪に持っていく見込みがないのに逮捕したら、後々面倒なことになりかねないから、どうしようもない」

 その男が殺してバラした遺体というのが、むかし店長が平然と処理したあの右手だったのだろうか。小指に指輪の嵌った手を思い出して、にわかに気分が悪くなった。

「だから、コンビニのゴミ箱に不審物があった場合、どんなふうに対処することになってるのか、気になって聞いてみたんだ」高志がそう言った。

 隆二は極力さりげない口調で、

「そもそも、コンビニのゴミ箱に不審物が入ってるなんてことはないよ。ほとんど、店で売ってるものを食べたり飲んだりした後の、包装や空き容器だけなんだから」

「やっぱりそうかあ」と高志もその答えに納得したようだった。

 店長は、ゴミ箱から具合の悪いものが出てきた場合はこっそり処理するのが、コンビニ加盟店のあいだでは公然の秘密になっている、などと言っていた。

 はたしてその犯人が、遺体をどのように細分化していくつの店舗のゴミ箱に捨てたのかは知らないが、そのすべての店が同じように処理したのだろうか。

 一方で、他人の犯罪が原因で、変なうわさを立てられて売上が落ちるのは店にとって容認しがたい、という店長の言ったことも、もっともだと思う。

 この世界は、隆二が思っているよりも、合理的に動いているらしい。



 その数日後、実家から一人暮らしのアパートに帰った。

 電車に乗って駅に到着すると、すでに夜10時近くになっていた。昼は人でごった返している駅前も、すでにまばらだった。

 晩夏の蒸し暑さが汗になってTシャツに貼り付いてくる。

 アパートに戻る途中、とうとう我慢できなくなり、隆二はコンビニに入ってミネラルウォーターを買った。

 店の前でキャップを開けると、一気に飲み干して、大きなため息を吐く。

 空き容器となったペットボトルを、コンビニのゴミ箱に入れようと手を伸ばした。

 そのとき、ゴミ箱の中から、小指にリングの嵌った女の手が、バネで弾かれたように飛び出して、隆二の手首をつかんだ。


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