足を踏み入れた

 モア達が向かっていた場所は、学校だった。


 向かっている途中で、予想は付いていた。


 ――僕が『ここではないどこかに行きたい』と願った場所。


 その場所に、モア達は向かっていた。


 モア達がよじ登っている校門をよそ目に、僕達は学校の裏に周った。裏側にあるグラウンドに入り、グラウンドのトイレから校舎に入る。ここには鍵が無いため、知っていれば侵入することは容易なのだ。


 校舎内にも何匹かモアがいて、皆同じ場所に向かって歩いていた――僕達のクラス、教室である。


「あった……!」


 清水さんが『それ』を指さして言った。


「あれが入り口だよ」


 教室の真ん中あたりに、巨大な黒い穴があった――否、穴というよりは円だ。巨大な黒い円。物体ではなく、透けて見えて、通り抜けられそうなのだが、どこまでも深い闇のような奇妙な円。


「……どうして今更になって、モアがあんなに出てきて、入り口まで出てきたんだろう」


 清水さんはつぶやくように言う。


 僕にはなんとなく――なんとなくだけど、その理由に予想が付いていた。


「……とにかく僕はあの穴に入って、ラスボスを倒してくればいいんだよね。そしたら、全部元通りに――元通りの世界になるんだよね」


 僕がいたくないと願った世界に。


「ラスボス――うん、そうだね、そうだよ。あっ、わたしも行くよ?」


「えっ……? 清水さんは行く必要無いんでしょ? それに、危ないし」


「ここまで一緒に来たんだから、最後まで付き合うよ。それに、ここにいた方が危なそうじゃない。ラスボスがいるとしても、水石くんと一緒のほうがきっと安全だよ」


 清水さんはそう言うと、僕の手を強く握った。


「わかった。じゃぁ、付いてきて。清水さんは……僕が守るよ」


 うん――と、清水さんは頷く。


 僕達は二人揃って、黒い穴――『どこか』への入り口に、足を踏み入れた。

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