三章
地獄絵図
その日も、『どこか』への入り口は見つからなかった。
僕はその日16匹目のモアを倒した後、清水さんと別れて家に帰った。
清水さんはただ見ていただけだったけれど――楽しかった。
幸せな一日だった。
こんな日が――清水さんと二人で町を回ってモアを退治する日が、明日からも続けばいいなと思ったんだけど。
翌日、僕が家を出る時間の数分前に、インターホンが鳴った。清水さんはいつも、玄関で待っているだけで、わざわざインターホンを鳴らしたりしない。しかし、時間的にはもう玄関の前にいるはずだから、おそらくは清水さんが鳴らしたのだろう。なにか急ぎの用だろうか。
僕は手早く外出の準備を済ませ、玄関を開けた。
「水石くん!! 大変だよ!!」
そう叫ぶ清水さんの真後ろに――モアがいた。
「清水さん!! 危ない!!」
僕は清水さんの手を引っ張って玄関に引き入れ、モアを思いっきり蹴飛ばした。
モアは倒れ、そのおかげで家の前の道が見える。
――モアが、数十匹のモアが、歩いていた。
「えっ……!?」
モアは――今まで人通りの少ない場所にしかいなかったのに……。そのモアが、町中を、道を、堂々と歩いているなんて……。
その光景は、さながら地獄絵図だった。人間になり切れていない悍ましい姿の生き物が、何十匹も町中を徘徊している。
「朝、外に出たら……モアが町中を歩いてて……みんな同じ方向に向かってるみたいなの!」
見ると、道を歩くモア達は皆同じ向きを向いて歩いていた。その統制が、余計に恐ろしさを強くする。
先ほど蹴飛ばしたモアが、起き上がってこちらに歩いてきた。モアは僕のことを気にも留めない。しかし、清水さんのことは捕食対象とみなすのだ。そんなモアが歩き回っている町中を通って、清水さんは僕の家まで来てくれたのだ。モアは動きが遅いから、走れば捕まることは無いとは言え、危険なことには変わりない。
「よく、ここまでこれたね……」
「うん、水石くんには伝えなきゃと思って」
「……」
清水さんが来なくても、どうせ僕は外に出たので、このことには気づくのだが――まあ、
「ありがとう」
と僕は礼を言った。
「清水さん、ちょっと下がって」
清水さんを下がらせ、僕は起き上がろうとしているモアにナイフを突き立てた。
「清水さん――清水さんはここにいて。僕はモアの向かってる先を突き止める」
「えっ? わたしも行くよ」
「いや、でも……危ないし」
「ここまで一人で来られたんだから大丈夫だよ。水石くんが一緒なら、もっと大丈夫だしね」
「……え、うん……じゃ、じゃあ、僕から離れないようにちゃんと付いてきてね」
正直なところ、清水さんがいないと不安だった。そうでなくとも、清水さんを突き放すことなんて僕にはできない。
僕は顔が赤くなっているのがバレないように、清水さんに背を向けたまま走りだした。
モア達の進行方向に向かって。
清水さんの手を握って。
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