やっぱグロい

「うわぁ……やっぱグロいね……」


 モアの死体を眺めながら、清水さんは言う。


「よくできるね、こんなこと」


 自分で倒して来いって言っておいて……。


「ま、まあ、最初は気持ち悪かったけど、もう慣れちゃった」


「ふーん――あっ、でね、さっきの話なんだけど、水石くん、モアの体を、未完成な人間みたいだって言ったでしょ?」


「う、うん――言った」


 まるで人間以外の何かが、人間になろうとして、なり切れなかったみたいだ――と。


「それを聞いて思ったんだけど、わたし達が願ったことで作られた『どこか』の世界では、きっと人間も作られたんだよ――うん、作られようとした。だけど失敗して、それで生まれたのがこのモア――だとしたら、結構辻褄合わない?」


 なるほど。なんていうか、人体錬成みたいなものか。もうひとつの世界は作れても、人間ほど複雑な生命は作れず、未完成で中途半端な、人間のなりそこないが出来てしまったと、そういうことなのだろうか。


「そうかも……しれないね。その『どこか』の世界には、他に何があったの?」


「この世界と、そんなに変わらなかったよ。同じような場所で、同じような家で、モアがいて――もうひとりのわたしがいた」


「もうひとりの、自分……」


「うん、ここではないどこかに行きたいと願った自分」


 僕の『どこか』にも、もう一人の自分がいるのか。変な感じだろうな。


 ていうか、『ここではないどこかに行きたい』と願ったのに、結局同じような場所にいるのか。


「それで、その世界に行って、どうやったら戻れるの? どうやったらみんなが生き返って、元通りに戻せるの? モアのラスボスがいて、そいつを倒すとか、そういう感じ?」


 ありきたりだけど。


「ん……うん、まあ、そんな感じ……だと、思ってれば大丈夫だよ」


「あぁ、やっぱり……そうなんだ」


 なんか……曖昧な感じだったけれど、それならまあ、分かりやすい。


「――あ、でも、小学生のときの清水さんでも倒せたってこと?」


「うん……倒せたよ、簡単に。だから水石くんもきっと大丈夫。『どこか』への入り口を見つけて、向こうに行くことができれば、全部元通りになると思う」


『きっと』とか『思う』ばっかりだけど、まあ、仕方ないのだろう。清水さんだって分かっている訳じゃないのだ。自分の経験と照らし合わせて、推理をしているだけに過ぎない。


 でも――だとしても、不安があるとしても、全部を元通りに出来るのなら、それが僕にしか出来ないのなら――僕がやるしかないだろう。


 清水さんを守るために。


 ……なんか、清水さんはモアが見えてるし、大丈夫そうだけれど。


「とにかく、モアを倒して被害者を抑えつつ、『どこか』への入り口を探そう。そうしないと、いつまでも学校が始まらないしねっ」


 清水さんはそう言って、僕の左手――ナイフを持っていない方の手を、握って来た。

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