行ったことがある
「えっ……僕のせいって……!? ど、どうして……」
言いながら、僕は少し、腑に落ちた気持ちにもなった。この一連の事件において、どう考えても僕だけが例外で、僕だけが特別だった。それは僕が選ばれた人間であるからだと納得し、喜んでいたのだが――だとしたら、いったい誰に選ばれたのだろう。
神か、それとも事件の原因そのものか。
どちらも曖昧で、僕が選ばれる理由に思い当たる節はない。しかし、僕自身が、僕そのものが事件の原因だと考えた時、ある程度納得はいく。僕が原因なのだから、僕だけが例外で、僕だけが特別で――僕だけが奴らを倒せる、事件を解決できる。そう考えれば確かに腑に落ちる。
だけれど僕にそんな覚えはないし、三桁に及ぶ被害者が出ている事件の犯人扱いをされるのはたまったものではない。
「水石くん――『ここじゃないどこかに行きたい』って思ったことはない? 」
「……あ、ある」
その覚えはあった。教室で、清水さんに彼氏が出来た話を聞いた時。僕はその場に居づらくなって、そんなふうなことを願った。それがきっかけであっただけで、それ以前から――普段から、漠然とそういうふうに思ってはいるのだが。
「モアが出てきたのって、ちょうどそう思ったときからじゃない?」
「……あ、あぁ……そういえばそうかも」
「じゃあ決定だね! この事件の犯人は水石くんだ!」
「えっ、いや、ちょっと待ってよ! どうしてそうなるの!」
「モアはね、水石くんが『ここじゃないどこかに行きたい』って願った、その『どこか』からやってきてるんだよ」
「えっ……それってどういう……」
「えっとね――、まあこれは正直なところ、わたしの推測でしかなくて、明確な根拠とかはなくて、本当は少し違ってたりするのかもしれないけど――あっ、今ってもしかしてモアの気配を追ってた?」
「う、うん、そうだけど……」
「だったら、そこに向かいながら話そうか」
そう言うと、清水さんは僕が向かっていた方向に歩き始めた。
「ほら、水石くんしか場所分かんないんだから、先歩いて」
「あ、うん……」
言われるままに、僕は気配を追って清水さんの半歩前を歩く。
「でね、水石くんは『ここじゃないどこかにいきたい』って願ったでしょ? その願いが、実は叶っちゃってるんだよ」
「い、いや、そんなはずないでしょ……、僕はここにいるし……あっ、もしかしてモアのいるこの世界は、僕が元いた世界と実は違うってこと?」
「そうじゃないよ。ここにいる水石くんは、どこにも行ってない」
ここにいる水石くんは、ね――と、清水さんは繰り返した。
「ここにいる僕って……。僕は……ここにしか、いないでしょ……?」
清水さんは静かに首を振った。
「きっと、もう一人の水石くんが、水石くんの願った『どこか』にいるはずだよ」
「もう一人の僕……!?」
「うん。それがどういう存在なのかは私にも分からないんだけど、きっとそこにいる。水石くんは『ここじゃないどこかに行きたい』って願って、その『どこか』は実際に生まれて、もう一人の水石くんが願い通りその場所に行ったんだと思う」
「なんだよ……、それ……。そんな意味分かんない話があるわけないだろ……」
「うん、あくまでわたしの仮設だから、間違ってるかもしれないけど――」
清水さんは一呼吸間をあけて
「わたしは、その『どこか』に行ったことがある」
と言った。
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