モア
僕が初めてあの化け物を倒した時、そこには清水さんもいた。その時の様子から、清水さんには化け物の姿が見えていないのだと、僕は判断したのだが――どうやら見えていたらしい。
それでも僕が登場するまで気が付かなかったということは、やはり行為に夢中になっていたということであって、僕としては吐き気を催す情報なのだが。
「――それで、もしかしたらあいつらが連続失踪事件の犯人なんじゃないか、って思って調査に乗り出してたわけ! 」
清水さんは敬礼のポーズをとって、笑った。
「……いや、あぶないよ。清水さんも被害者になっちゃうかもしれないじゃん」
「あいつら、動き遅いから、走って逃げれば大丈夫だよ。見えてさえいれば問題ないの」
「そ、それはそうだけどさぁ……」
この様子だと、彼女はひとりで、何度かあいつらに遭遇しているようだ。
「――あ、ってことは、清水さんも気配が分かるの?」
「ううん。私にはあいつらの姿が見えるだけで、気配までは分からないの」
首を横に振って、彼女は言った。
「――水石くんと違ってね。水石くんには、あいつらの気配がはっきり分かるんでしょ? そして、なぜか水石くんのことだけは襲ってこない。水石くんはそれをいかして、町中の怪物をナイフでばったばったと倒しまわってる。そのおかげで、学校が休みになってから被害者の数が減っている――違う?」
空中でナイフを振り回す動きをしながら、彼女はそう言った。
「そ、そうだけど……、なんで分かるの……?」
「やっぱり? あってた? ふふーん、わたしって探偵とか向いてるのかな」
そうやって、僕の目の前で大げさな身振り手振りをしながら話す清水さんは、僕のイメージとは少し違っていた。……まあ、面と向かって清水さんとこんなに話すのは初めてなんだけれど。
清水さんは人差し指を立てて、僕に向かって身を乗り出すような姿勢をとった。清水さんの綺麗な顔が近づいて、少し緊張する。
「でも、それでいいと思うよ。水石くんにはそれができるし、水石くんにしか出来ない。水石くんにはそれをする義務があるし、責任がある」
「せ、責任……!?」
「うん、水石くんは自分のことを、選ばれたヒーローだとか、この町を救える唯一の救世主だとか、って思ってるかもしれないけど――」
痛いところ、恥ずかしいところを突かれ、思わず「うっ……」っと声が漏れる。
「あの化け物――わたしはモアって呼んでるんだけど――モアが現れたのは、きっと水石くんのせいだから」
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